今、JRに起こっていることをいろいろな角度から見てみよう

日曜夕方の新千歳空港。搭乗口近くの小売店のレジには、白い恋人などのお土産を持った観光客が長蛇の列を作っていた。出発便の時刻表のディスプレイには「羽田」の文字がずらり。ANA、AIRDO、JALを合わせると、17:00、17:10、17:30、17:35、18:00とかなりの頻度だ。さすがドル箱路線。

北海道新幹線は青森から函館までしかつながっていない。そのため、札幌から東京まで行こうとすると、新幹線と特急を乗り継いで計8時間かかる。一方、飛行機の場合は新千歳空港から札幌駅までの乗車時間を含めても約3時間。速い。でも、8年後には大きく変わるだろう。北海道新幹線が札幌まで延伸するからだ。

新幹線が飛行機に勝てるのは、移動時間が4時間までと言われている。それ以上かかってしまうと、客はより速い航空機を選ぶ傾向にある。東京から現在の終点である新函館北斗まででも最短3時間54分。さらにスピードを上げないと、札幌まで4時間以内という目標は到底達成できない。その取り組みの一つとして、JR東日本は最新型車両「ALFA-X」の開発に力を入れている。現在、同社は最高速度320km/hの車両「E5系」を持っているが、「ALFA-X」で360km/hの営業運転を目指す。

青函トンネルを出たばかりの新函館北斗行「はやぶさ13号」。東京駅を9:36に出ている。車両はJR東日本所属のE5系(北海道上磯郡知内町、7月30日13時16分、筆者撮影)

なぜ、JR東は札幌延伸を見据えたスピードアップにここまで熱心なのか。実は、同社にとってかなりのメリットがあるとされている。「北海道新幹線」という名前が指しているのは、新青森駅から新函館北斗駅(いずれは札幌駅)までの区間で、東京駅から新青森駅までは「東北新幹線」である。北海道新幹線はJR北が、東北新幹線はJR東が担当している。延伸の後、利用者が東京から札幌まで新幹線で行く場合、東京―新青森間の乗車券と特急券はJR東の収入となり、同社にとってかなりの増益が見込まれている。

JR東日本は「ALFA-X」以外にもさまざまな設備投資を行っている。福島駅のアプローチ線工事もその一つ。現在、山形新幹線は東北新幹線と連結する際、線路を横断する必要があり、この間他の車両を通せんぼしてしまう。JR東は昨年4月からこの問題を解消する工事に取り組んでおり、東北・北海道新幹線のダイヤをより柔軟に編成できるようにする。

こうした話題の一方、JRの地方路線の存続が話題になっている。先月28日には、JR東が輸送密度2000人未満の路線全てが赤字だと発表した。コロナ禍で収入が減ったJRにとってローカル線はこれまで以上に大きな負担となっている。一方で、東北新幹線などへの大規模な設備投資は続けられている。

栃木県内を走る東北本線の本数が減らされ、沿線の高校生の帰宅に支障をきたしているというニュースが話題になった。「新型車両を開発するお金があるなら、高校生のためにもっと電車を走らせてくれてもいいのに」。そう思う人も多いだろう。

JR東は民間企業である。「儲かる」あるいは「儲かりそうな」路線に投資し、経営の足を引っ張る路線を法令の範囲内で廃線・縮小化するというのは、営利会社として当然という見方もできる。

 

数多くの自然災害に見舞われる日本では、これまでたくさんの鉄路が被災した。これらの半数以上の路線が復旧を遂げてきたのは沿線自治体だけでなく、JRの「善意」によるところが大きい。復旧後も赤字が見込まれているにも関わらず、鉄道を生活の足としている住民のために上下分離方式などの形をとりながらも運転を再開してきた。しかし、コロナが直撃して、JRからそのような余裕が奪われつつある。

JR6社(貨物除く)の中で、JR東海だけはローカル線の収支を一切公表していない。同社は「現時点ではローカル線の見直しは考えていない」と断言する。JR東海のように経営体力のある会社と、そうでない会社とで、沿線住民が受けるサービスに差が出ている。

経済的合理性を追求するという民間企業の側面を持ちながらも、公共交通機関というインフラを担っているJR。これまであいまいにされてきたJRの自主性はどの程度尊重されるべきなのか。華やかな新幹線の話題に目を奪われがちだが、一人一人が真剣に考えなければならない時が来ている。

参考記事:

7月29日 朝日新聞デジタル テツの広場「『ローカル線、JRだけでは維持困難」赤字補う想定、各社崩れる」