チーズとバターの違いは何?

「チーズとバターの違いは何ですか?」

大学の講義で先生に聞かれたとき、まったく答えられませんでした。普段からよく食べていますが、乳製品であることしか知らず、成分を考えたことはありません。

筆者の通う九州大学伊都キャンパスには農学部附属農場があります。農学に関する教育と研究を行う施設として建てられ、2021年に福岡空港から車で10分ほどのところにある原町キャンパスから伊都キャンパスへと移ってきました。伊都キャンパスは福岡県糸島市と福岡市にまたがって広がり、周囲には畜産農家も多くあります。入学して初めて九州に住んだ筆者にとって、入学当初、毎日当たり前のように牛を見かけることは新鮮な感覚でした。

農場には現在乳牛が7頭います。授業では牛のブラッシングをさせてもらったのち、絞った乳を使ってバターとチーズを作りました。

九大の農場。牛舎は温度調整のため、扇風機がずっと回っていた(6月29日筆者撮影)

牛乳は脂肪分と脱脂乳からなり、バターは脂肪分から、チーズは脱脂乳からできています。これがバターとチーズの大きな違いです。脂肪分を掬い取り、容器に入れてひたすら振ることで、脂肪球の周りに薄い膜ができ、固形部分と水分に分かれます。振る際に手の温度で温まってしまうと、脂肪分が固まらず、うまくできません。固まった部分の水分をさらに抜くことでバターが出来上がりますが、できあがった量はわずか。牛乳に含まれる脂肪分はおよそ3パーセントなので納得です。

筆者が15分必死に振っている様子。手作りだとかなり労力がかかる。(6月29日筆者撮影)

クラッカーにつけて食べてみる。市販のバターよりも滑らかに感じた。(6月29日筆者撮影)

次にチーズですが、バターで脂肪分を取り除いた脱脂乳に酸やレンネットなどの凝固剤を加え、混ぜることでできあがります。実習ではナチュラルチーズとモッツァレラチーズを作りましたが、作り方はかなり異なり、触感や質感、味も違うものでした。「材料はほぼ一緒なのに少し作り方を変えただけで見た目もこんなに変わるんだ」という声もちらほら。スーパーの陳列棚を見るだけでは感じることのできない驚きです。モッツアレラチーズは凝固させたプリンのような触り心地の牛乳、カードを75度の食塩水の中でこねることで柔らかいゴムのような弾力と表面のツヤが出てきます。「柔らかくて丸めるの難しいね」「お湯につけすぎるとチーズが溶けちゃう」などの会話をしながら、普段食べるモッツァレラチーズの硬さが生まれる瞬間を見られるのも実習ならではの面白さです。

チーズを食塩水湯につけて伸ばし、丸める様子(7月6日筆者撮影)

作ったモッツアレラチーズに農場でとれたバジルとトマトを添えて試食(7月6日筆者撮影)

授業ではビデオをもとに乳製品の歴史も学びました。古代アラビアの商人が、羊の胃袋を使った容器に絞ったヤギの乳を入れ、長時間砂漠を歩いていたところ、乳のなかに白い塊が。それがチーズの始まりと言われています。先生の説明では、ヤギの第4胃袋に存在する消化液の抽出物であるレンネットが乳に影響を与え、運搬中に袋の中身が振られることにより、チーズへと形を変えたのだそうです。

日本は牛乳の普及が他国と比べると非常に遅く、身近な存在となったのは学校給食がはじまった戦後期からといわれています。今では身の回りに乳製品があふれていますが、現在酪農家には大きな課題も。新型コロナウイルスによる学校休校や飲食店の休業で、牛乳や乳製品の消費が落ちたのに加え、ウクライナ情勢による飼料高騰、円安などによる影響に悩まされているのです。学校給食に牛乳が出ますが、長期の休みは需要がない一方で、乳の生産を止めることができず、余剰乳が出てきてしまうといった問題は以前からよく耳にします。フードロスを抑えるために、乳製品に変えようという試みはされるものの、需給のバランスは未だ課題のようです。現在の状況は酪農家の経営にとって非常に打撃が大きく、厳しい状況のようです。

コロナ禍では酪農家の力になれればと牛乳消費キャンペーンが各地で行われていたことは記憶に新しいのではないでしょうか。そんな中、筆者のように乳製品の作られ方や商品の成分の違いを知らない人がいるのもまた事実です。冒頭の質問にきちんと答えられた学生は一人もいませんでした。「ぼーっと生活してたわ…」と漏らした学生も、「自分で作ったらすごくおいしいし、他のチーズも試してみたい」とチーズにはまったようです。成分表示に目を向けたり、夏休みに牧場で体験したりしてみてはいかがでしょうか。筆者は、乳製品ができるまでを知ったことで、普段の買い物が楽しくなりました。

わしわしと飼料を食べる牛。飼料は農場で作っている(6月29日筆者撮影)

参考記事:

7月4日 読売新聞オンライン「酪農家9割 経営難実感…円安やコロナで

7月8日 読売新聞オンライン 気流「国産食材 たくさん買おう