数研出版教科書謝礼 教育に携わる者の姿勢 再考せよ

今日は1月2日、お正月の恒例行事の箱根駅伝を観ながら書いています。大変楽しい気分なのですが、その気分を興ざめさせるような一面トップ記事でした。昨年も同様の投稿しましたが、今日は新年早々、企業倫理や職業意識についてもう一度考え直していこうと思います。なお、2日は休刊のため、1日の朝刊からとなります。

中学校と高校の教科書を発行する「数研出版」が数学の中学教科書への参入を前にした2009年頃から、教科書への意見を聞いた謝礼として公立中学の校長らに1回あたり5000円の図書カードを渡していたことが分かりました。各地の中学校長らをリスト化し、中元や歳暮も送っており、贈り先には、教科書選定に関与した人も確認されています。文科省が禁止している検定中の教科書を見せたケースもありました。このような校長への謝礼問題は、三省堂のケースが既に判明しており、教科書選定を巡る学校現場と教科書会社の関係を抜本的に見直す必要性を感じさせます。

 「絶対に勝ち取らないといけない」 「なりふり構っていられない」(読売新聞より)

これは教科書業界の営業マンの声です。このような違反した営業を行ってしまう会社の状況や心理は分からなくもありません。採用を勝ち取ることができれば、その市区町村の生徒数分の教科書を納入することができます。1教科でも大きな収益です。教科書選定は4年に一度、少子化の煽りを受ける中、選定の可否が会社の存続を決めるといっても過言ではありません。ましてや数研出版は中学数学の教科書の占有率は7社中6位、他社に遅れをとっている中で違反と分かっていてもやってしまう、その心理に同情してしまうのが筆者の本音です。この問題の原因には、業界の特性や導入までの営業の仕組みが少なからず影響しているのでしょう。

ルール違反があり、その認識があったことは事実です。かわいそうだから免罪してやれというわけにはいきません。冒頭に述べた通り、会社全体として企業倫理や職業意識の欠落の一言に尽きます。民間企業同士で、製品の納入やサービスの導入に関して今回のよう謝礼やお歳暮などの贈り物があったとしても全く問題ないでしょう。それも営業の一環としてよく行われています。しかし今回は民間企業と公立の小中学校、いわば官と民との関係です。税金で運営され、本来は製品の良し悪しや価格など、客観的な情報のみで選定が行われるべきであるにも関わらず、もし今回のような行為で選定がなされたのならば、公的サービスを一端を担う企業としてあってはならない行為と断定できます。

ここまで企業側の行為について書いていきましたが、その一方、教員側の職業意識にも失望します。貰った金品を返送せずに「受け取った」時点で疑わしさ百倍です。紙面では「受け取った」教員の存在も掲載され、これでは癒着を疑われても仕方がありません。教員側の職業意識も欠落したと言わざるを得ないでしょう。第一、指導する立場として、予算の中で最も良い教科書を使うべき生徒たちに対して失礼極まりない行為です。企業側の違反の原因は教員側にあるのかもしれません。

一般企業に求められるコンプライアンスや製品の安全性に関する意識が主たるものです。ですが公的なもの、とりわけ教育に関わるような製品を扱う企業にはそれ以前により高い倫理観が必要とされることは言うまでもありません。また、それと同時にこのような違反営業を誘発する仕組みを文科省や市区町村の教育委員会は制度を是正する必要性もあるように感じています。つまり、企業側と教員側の双方がお互いの職業意識を汚さない仕組みが必要なのではないでしょうか。なにより、双方ともに教科書を使う生徒たちを第一に考える姿勢があれば、こんな行為はできないはずです。

今回問題になった数研出版、懐かしい名前をこのような形で見ることになり、非常に残念に感じています。信頼を地に落ちてしまったことでしょう。しかし、数研出版が製造する「チャート式」や「新編 数学Ⅰ」など、数学の苦手な筆者を何度も助けてくれた記憶があります。個人的な願いではありますが、同社には職業意識と企業倫理を一から学びなおす姿勢を見せてくれることを期待します。それが教育に関わる企業として求められる姿ではないでしょうか。

参考記事1日読売新聞朝刊(東京14版) 1面「数研出版も教科書謝礼」 39面(社会面)「違反認識の営業」より