多様化する漫画のテーマ 更なる学びのきっかけに

「漫画はダメ! 小説とか物語にしなさい!」

本屋でアルバイトをしている私は、本を買ってほしいとねだる子どもと揉める親の姿をよく目にします。大体は「一冊だけにしなさい」というような、購入冊数を巡った理由ですが、その日は違いました。

小学生低学年らしき子供が持ってきたのは、朝日新聞出版から出ている「科学漫画サバイバル」という漫画シリーズ。宇宙や深海、または昆虫や恐竜、AIやウイルスなど幅広い題材を扱い、面白さはもちろんのこと、大人でも勉強になるほどの知識量を誇ります。しかし、その親御さんは漫画という理由だけで一蹴し、駄々をこねる子どもをよそに、代わりに小学校の推薦図書を買っていかれました。漫画=無教養というイメージがいまだに根強いということを実感する体験でした。

実は、その「サバイバルシリーズ」は私の小学生時代の愛読書で、全巻集めていたほど大好きな漫画でした。新しいシリーズを読むたびに興味、関心は広がり、「宇宙のサバイバル」を読んだときには、1年ほど本気で宇宙飛行士を目指したほどです。もちろん情報の量や質では新書や専門書に劣るでしょう。とはいえ漫画をきっかけにより知りたい、学びたいと思ったことは何回もあります。

そして、ここ10年ほどで漫画の題材の多様化がさらに進み、以前よりも深みがあり、考えさせられる作品が増えています。最近の週刊少年ジャンプでも、科学やクラシック、落語など、今までにないテーマの作品が連載され、大ヒットを記録しています。

私の最近のお気に入りは、2022年の漫画大賞1位、「この漫画がすごい!」で10位を獲得した『ダーウィン事変』です。人とチンパンジーの交雑種である「ヒューマンジー」という空想の生物である主人公を中心に、動物愛護やヴィーガニズム、銃規制など現代の様々な問題を取り上げています。私自身、ヴィーガンはただ肉や魚を食べない人だと思い込み、彼らについて知ろうともしませんでした。しかし、この漫画を通じて「動物搾取を無くすことが目的で、その思想は食事だけでなく衣服など生活全般に及んでいる」ということを知り、その考えや価値観に興味を持つようになりました。身近にヴィーガンの人がいない私のように、自分と関係ない世界にでも分かりやすいフィクションを通じて飛び込んでいけることも漫画の魅力の一つです。

28日の「NIKKEI プラス1」では、シニアを主人公にした漫画が紹介されていました。65歳の専業主婦が映画制作に挑む『海が走るエンドロール』、70歳の超高齢出産を描いた『セブンティウンザン』など、フィクションならではの設定が目を引きます。紙面では「50~60代の人が近い未来に共感」という見出しで、シニア世代あたりの年齢層に向けた紹介がされていましたが、漫画という切り口は、若者が中高年の意識や関心知るきっかけにもなり得るのではないでしょうか。

「学ぶことのない本など存在しない」。本屋で働いていて改めて思ったことです。ジャンルに関係なく、多種多様な書籍に触れることは必ずいつか役に立ちます。漫画だからと侮らず、世界を広げるきっかけとして積極的に手に取ってみてはいかがでしょうか。

 

参考記事:

28日付 日本経済新聞 NIKKEIプラス1 1、2面 「シニアのリアル マンガで体感」