「お客様の声」の在り方

先日、バイト先に貼られている「お客様の声」を見ていると、こんな投稿がありました。

「いらっしゃいませ、などと言葉を発するんじゃない。喋るな。」

おそらくこのお客さんは、コロナ禍であることを考慮してこの投稿をしたのだと思います。そのことを踏まえても、筆者はこの投稿には納得できませんでした。もちろん従業員はマスクをしていますし、ビニールシートも設置されています。「いらっしゃいませ」の声がない店など、逆に不快ではないでしょうか。その声すら嫌なら、店に来るなと言いたくなってしまいます。

このような、理不尽なクレームを客から突き付けられることを「カスハラ」(カスタマーハラスメントの略)と呼ぶそうです。近年では、この「カスハラ」が従業員を離職に追い込むことも多くあるそう。

今朝の朝日新聞では、介護業界の例が挙げられていました。営業担当の女性は、身体を震わせながら受話器を握り、「常識がない」「社会人として失格だ」といった男性の怒鳴り声を1時間も浴びせられ、謝り続けていました。女性の目には涙がこぼれます。電話をかけてきた男性は施設利用者の家族。利用者の細かい体調の変化まで逐一報告するように求めていました。少しでも報告が滞ると女性を罵倒しました。他の従業員が代わって対応したり、女性の相談に乗ったりしましたが、結果女性は退職してしまったそうです。

このような、客からの理不尽や過度なクレーム、通称「カスハラ」が後を絶ちません。かつては、「お客様は神様」などといった言葉もありました。その言葉は、接客業界ではまだ根強く残っています。厚生労働省は20年、カスハラに関する指針を策定しました。利用客らが社会通念上ふさわしくない言動で要求し、働き手の就労環境を害するものだと考えられているとする一方、「企業や業界により、顧客などへの対応方法・基準が異なることが想定されるため、明確に定義できない」としています。

この、明確な基準が設けられていないことが「カスハラ」消滅への道を阻み、企業の及び腰姿勢に繋がっているようです。

「お客様は神様」という言葉がある通り、従業員と客、どちらの身分が高いかでいうと客なのかもしれません。しかし、客も従業員も同じ「人間」です。お互い、思いやって接することはできないのでしょうか。思いやりの心を持つことは、そんなに難しいことでしょうか。

客一人の「カスハラ」が、従業員の人生までも変えてしまうのです。「お客様の声」は、理不尽なクレームではありません。その店やサービスをより良いものにするためのものです。このことを頭に入れて、「お客様の声」の在り方をもう一度見直していくべきなのではないでしょうか。

 

参考記事:朝日新聞13版14面 「カスハラ」対策線引き悩む企業