【先駆的】東大発イノベーションスクールに参加して

昨今「イノベーション教育」や「起業支援」が流行です。全国各地の大学が特別な教育プログラムを新設したり、資金面や運営面で手厚い支援を試みたりしています。中でも体制が整っているのが、東大発で日本社会イノベーションセンターが運営する「i.school」と大阪大学共創機構による「Innovator’s Club (i-Club)」でしょう。どちらも、イノベーション論や起業家教育を専門とする一流の講師陣を揃え、バラエティーに富んだ講座を多数用意しつつ、学生の活動を包括的に支援しています。

今回、i.schoolのワークショップ(WS)に飛び入り参加する機会があり、その様子と感想をご紹介します。WSのテーマは「ソーシャルフィクション:2030年の憧れの生活を妄想する」。小説や漫画にあるような超具体的な「未来社会のワンシーン」を妄想することがポイントです。GW中の3日間、山梨県山中湖村にある東大の寮を会場に合宿形式で実施されました。

参加者は、i.schoolのプログラムに通年参加する学生が16名、筆者のように今回限りの飛び入り参加が4名、WS進行のアシスタント役の学生が7名、大手メーカーなどで働く社会人の方が3名。所属先は東大院工学系研究科が多い印象でしたが、地方大や美大、文系もちらほら。コミュニケーション能力が高く、向学心旺盛な人が揃っていました。

まず、参加者には83種類の「マクロトレンド」すなわち、社会のあり方を変容させる傾向が提示されます。自分の将来の働き方、暮らし方に影響を与えそうなものを8個選択したうえで、5チームに分かれてチームごとに議論しつつ、妄想を膨らませます。各人が選択した内容はかなりバラけていたものの、「副業フリーランスの経済規模と人口の増加」「地方移住願望の高まり」さらには「タダ・ネイティブの台頭」つまり無料の漫画や音楽しか消費しない若者の増加、などが人気を集めていました。

次に、i.schoolの卒業生で、先駆的と思われる生活を送っている方2名にヒアリングを実施しました。地方移住やフリーランスという生き方を選んだお話は、都会在住や大企業勤務という固定観念に縛られていた筆者にとって非常に新鮮でした。地域に根差した暮らしを送りながらも、日本全体や世界に目を向けて様々な活動に取り組んでいるという話からは、2人の視野の広さも窺えました。i.schoolは他にもユニークな人材を多数輩出しており、その成果は『解答のない参考書 – 人生をデザインするための12人のインタビュー』という書籍に収められています。

マクロトレンドの議論とヒアリングを踏まえつつ、後半戦はWSのお題「2030年の憧れの生活を妄想せよ」への回答を練っていきます。

講師の先生から「未来社会の世界観」を3つ定めるよう指示が出されました。最先端の技術やサービスを基にした議論が展開されると思いきや、「ぬくもり」「人類愛」といった、古今東西老若男女に共通する普遍的な解を挙げるチームが少なくない印象です。「好きを中心とした人生設計」「目的重視の人生設計」「組織も人も柔軟に」「希望を素直に実現」など、人生の目的を見定めつつも達成手段は柔軟に選択すべき、というスタンスは多くのチームに共通していました。ついで「自分の憧れ」すなわち、各々が目指したい将来の生き方を考えよ、という課題も出されましたが、ここでも、愛、幸せ、感性重視などの要素が多数見受けられました。

最終日は、これらの世界観や憧れに立脚した将来のシナリオを発表します。会社の採用活動において、うわべの志望度や優秀度ではなく、個々人の何かに対する「好き」の度合いを評価して選考する仕組み。大人気YouTuberのカップルが、世間の目線や評価、視聴者数と「いいね」数による収入に疑問を抱き、素朴な愛を優先すべく動画配信をやめる話。電動キックボードが普及して、サブスクサービスや競技大会が設けられる一方、マナー悪化に伴う諸問題も噴出する話。全チームがAIや機械に支配される社会ではなく、人間を中心とした社会の将来像を解像度高く描いていました。

筆者の感想を3つの面から述べたいと思います。内容面では、自分の想像力や視野の狭さに気付かされました。国際性、環境、DX、人材多様性が重要だろうと予想して事前に構想を練ってはいたものの、具体的なイメージを欠き、課題をさほど順調にこなせませんでした。一方、他の参加者と議論して、自分にはない視点を多く知ることが出来たのは大きな収穫です。チームワークの面では、飛び入り参加ながら良い協力関係を築けたと思っています。振り返り反省会では、主宰者からタスク(共通目標)と社会的要素(協働意欲)についての解説があり、その重要性を再認識しました。最も印象的だったのは実施の形式です。付箋紙や大きな模造紙は一切使わず「Miro」というオンラインホワイトボードを駆使して作業を進めました。振り返り反省会では「APISNOTE」というi.schoolが独自に開発した電子付箋システムを利用。当初こそ戸惑いを覚えたものの、徐々に慣れて便利だなと感じました。

i.schoolは今年度8回のワークショップを実施する予定で、参加者を随時募集しています。自分の実力を試したい方は、公式ウェブサイトで情報を確認のうえ、応募してみてはいかがでしょうか。