【特集】知っていますか、福祉ネイリストのお仕事

コロナ禍で見つけた趣味の一つにネイルがあります。ゲル状の樹脂を硬化させて形づくる「ジェルネイル」の素材は、今や100円均一にも売っています。一人で気ままに出来るセルフネイルも良いですが、サロンでプロから施してもらうネイルも捨てがたいところ。爪先のお洒落は見る度に心が弾みます。その気持ちは若い女性だけではないでしょう。「福祉ネイル」がその証拠かもしれません。専門の資格を取得した「福祉ネイリスト」が、施設などに出向いて、高齢者・障がい者の爪を魅力的に生まれ変わらせます。日本全国に「癒し・元気・希望」を届ける福祉ネイリストたち、今回はそのお仕事に迫ります。

米持さんと福祉ネイル

インタビューに応じてくれたのは、2018年に開設したネイルスクール「ハニーネイルビー深谷店」の代表、米持利佳(よねもち りか)さんです。ネイリストを育てる傍ら、爪の傷み具合や癖に合わせ健康的な爪を導く「自爪育成サロン」を運営しています。元々絵を描いたり、モノづくりをしたりするのが得意であった米持さん、無限大のアレンジができる世界に魅せられネイリストの道へ。今では20年を超える大ベテランです。そんな米持さん、介護施設を訪れたことがきっかけで、美容サービスを通じて感動を与える「福祉ネイリスト」を志し、2020年10月には資格を取得。翌年の3月に「ハニーネイルビー深谷店」は認定校となりました。講師として福祉ネイリストの養成講座を開くことができます。米持さんもこれまで20人ほどを送り出してきました。

「ハニーネイルビー深谷店」深谷駅北口から約7分で到着(4日筆者撮影)

米持さん(4日筆者撮影)

福祉ネイリストへの道

福祉ネイリストは初心者でも一から目指すことができます。中には現場を知る介護士の方までいるそうです。資格の取得には、日本保険福祉ネイリスト協会の認定校で21時間の知識・技術の講習を受け、さらに施設での実地研修と卒業課題の合格が求められます。施術の対象者は、高齢者はもちろん、認知症を患っていたり、麻痺があったり、車椅子に乗っていたりと様々です。そのため、中腰や立ったままの姿勢で作業するケースも多く、体力が求められます。米持さんも、90代の方への施術の経験があると言います。

利用者の体の負担にならぬよう、時間の目安は一人20分。技術よりもふれあいが大事なため、専門的な機器が必要となるジェルネイルではなく、マニキュアを使用します。また、ニッパーは使わないなど、安全面での配慮も欠かせません。男性の利用者には、マッサージなどのケアをするそうです。過去には女性と同じようなネイルアートを望んだ方もいたのだとか。男女関係なく笑顔にできるのも魅力です。

「メイクやヘアスタイルなどの美容もありますが、ネイルは一日のうちに何度も見ることが出来ます。その度に笑顔になったり、施術の記憶を思い出したり、笑顔と元気をお届けしています」。米持さんのお話を聞き、お洒落に年齢も性別も関係ないことに気づかされました。

いただいたパンフレットには笑顔で映る高齢者の姿が

カギはコミュニケーション

通常のネイルと異なり、コミュニケーションが重要なのが福祉ネイル。特に高齢者への施術は、認知症の予防や改善にも繋がります。利用者の人生を一緒に振り返ってあげることで、脳を活性化する効果もあるとされています。「最初は恥ずかしそうに遠慮する人もいます。ただ一度試すと喜んでくれるので、私自身も元気をもらっています」と米持さん。

「ご出身はどちらですか?」「子供の頃はどんな遊びをしていましたか?」などの会話は必須です。認定校での講習では、そういった話法を学ぶカリキュラムまであります。デザインは気になるところですが、一本の指のみアートを施し、残りはワンカラーで完成させることが多いそうです。アートは、昔の思い出を引き出すもの、昔話で花が咲くもの、季節感が感じられるもの、などなど。コマや凧、おにぎりといった独特なアートを描く専門家もいるようです。「また来てね」「かわいいね」と、喜ぶ利用者の顔が、今日も福祉ネイリストたちの励みになっています。

米持さんが描いた福祉ネイルのサンプル(提供写真)

コロナ禍のいま

コロナ禍で施設への訪問が難しくなっています。営業をしても「コロナが落ち着いたら…」と断られるケースが続いています。それでも社会での認知度を高めるため、ショッピングモールなどでイベントを開くネイリストたちが増えてきたと米持さんは話します。対象者はモールに遊びに来た親子連れなど。キッズネイルを通じて福祉ネイルの普及に努めています。

コロナがもたらしたのは、悪いことばかりではありません。米持さんのスクールでは、コロナ禍で受講者が増えたと話します。巣ごもり生活で新たな趣味を見つけよう、本当にやりたいことをやろう、と未経験者が門を叩くようになっています。「ハニーネイルビー深谷店」での福祉ネイリスト養成講座も、コロナ禍に開講しています。実地研修を行った生徒たちが、「良い仕事だ」「選んでよかった」と話してくれる時が、米持さんが最もやり甲斐を感じる瞬間です。

未来を彩る

「福祉ネイルの存在を広め、ネイリストを増やしたい。そして、日本のお年寄りをもっと元気にしたいです」。米持さんの力強い訴えを聞き、この仕事が、これからも多くの方を元気づける原動力になればと思いました。移動が困難でサロンに足を運ぶのが難しい方々の生活が、彩り豊かに続くことを願います。

 

参考資料;

一般社団法人日本保険福祉ネイリスト協会 公式ホームページ


 

左は米持さんの普段の作品。右は通常コースの生徒さん方の作品。福祉ネイルに留まらず皆さん活躍している。(4日筆者撮影)

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