ご当地ネタの記事の反響について

地名は面白い。東京の日本橋から山梨方面に向かう甲州街道には高井戸(京王線の千歳烏山駅付近)という宿場があり、もともとこれは日本橋からの最初の宿場だった。しかし、日本橋―高井戸間の距離が長く、旅人が苦労していたことから、その中間地点に新しい宿場がつくられた。地元の内藤氏が土地を幕府に返上してできたことから「内藤新宿」と呼ばれ、現在の新宿となる。

平地が広がっていると思われがちな関東平野。しかし、よく見てみると起伏がある。23区の西側半分は武蔵野台地の上にあり、山の手と呼ばれる。JR山手線の名前もここからきている。山の手とその東側の低地(下町)とでは高低差があり、境目には当然、坂ができる。東京都港区はその境界線上に位置し、数多くの坂がある。大手音楽事業統括会社のソニー・ミュージック・エンターテインメントはかつて、港区の乃木坂という坂の上にオフィスを構えていた。この建物での最終オーディションを経て誕生したのがアイドルグループ「乃木坂46」だ。けやき坂やさくら坂も港区内にある。

東京都港区にある乃木坂(筆者撮影)

東京の地名に関する話を述べてみた。皆さんはどう感じただろうか。割と面白いと思ってくださった方が多いのではなかろうか。新宿も乃木坂46も、全国的に圧倒的な知名度を誇り、新たな発見に嬉しくなる人がきっといたと思う。

ではこちらはどうだろう。私が前回執筆した、佐賀県鳥栖市についての記事だ。鳥栖や基山のことをある程度知っていないと、記事内で述べた住民の境遇を想像するのはかなり難しいと思う。実際、さまざまな人から感想を聞くと、なかなか理解に苦しんだようだ。

その一方で、その地域を知る人たちからの反響はかなり良かった。「確かに佐賀に住んでいた実感なかった」「鳥栖市民の気持ち代弁した記事」。これらの感想を聞いた時、書いてよかったなと思った。

ご当地ネタを扱う時、私はその地域を全く知らない人にも分かる書き方に努めている。鳥栖の記事でも頑張ってみた。ただ、読者の関心を引きつけることには限界がある。新たな知識が上書きされたときのような新鮮さや喜びを、もともと知名度が低い地域に対して感じてもらうのはかなり難しい。

幅広く興味を持ってもらうためには、多くの人に身近な場所を題材にするのが手っ取り早い。でもそれを意識していると、人口が少ない地域のことが書きづらくなる。

幸いなことに、あらたにすはビュー(記事の閲覧数)を過剰に意識せず、伸び伸びと書ける環境にある。どんなに人口が少ない地域にもさまざまな話題が埋もれているはずだ。地元の方がそれを切実に感じているのであれば、躊躇なく書き続けよう。

 

参考記事:

朝日新聞デジタル 2020年8月7日「(マダニャイ とことこ散歩旅:387)外苑東通り:24 乃木坂:上」

参考資料:

新宿区HP 「新宿区について(名前の由来・歴史・地勢)

乃木坂46Mobile 「乃木坂46とは?