生きた知識をもたらす教育の必要性

「STEAM教育」という言葉を聞いたことはありますか?科学(Science)、技術(Technology)、工学(Engineering)、アート(Art)、数学(Mathematics)の頭文字を組み合わせた造語で、分野横断的な学びを通して物事を多角的に捉えたり、新しい価値を創造したりする力を育てます。

近年、多少変化がみられるとはいえやはり就職には学歴が必須であり、高校生、中学生は受験のために必要な知識を必死に詰め込みます。もちろん知識量は多いに越したことはなく、暗記中心の受験勉強も決して無駄にはなりません。

しかし、「名門大学出身であり学力が高い=仕事ができる」とは言いきれないと思います。社会に出てからは知識をただ持っていれば良いわけではなく、その活用や融合、あるいは知識をベースにした創造が求められます。残念ですが、周辺を見る限りそのような力を育てる教育は乏しいように感じます。

元々海外で実施されていたSTEM教育に「アート」を追加して誕生したのがSTEAM教育。他の国と比べ質の良い理数教育はあるもののクリエイティビティが不足している日本では、2019年に文部科学省が推進を掲げたことで脚光を浴びました。アートや創造というとどこか生まれつきの素質によるもののような気がしますが、一般社団法人STEAM JAPAN代表理事の井上祐巳梨さんはSTEAM教育における有識者との対談の中で、次のような発言をされています。

時代に沿った世界水準に合わせていくことは非常に重要と思っています。今、本当に「答えのない問いに、自分で答えをつくる」ということをもはや訓練(!)としてやっているのでは、というようなことを各国の教育の現状を見ながら、感じることがあります。

知識を詰め込み真面目に働くだけでは埋められない海外との差が想像力であり、それが教育により鍛えられるものであるならばSTEAM教育は学生個々人の能力育成だけでなく、日本社会全体に良い影響を与える可能性を秘めているのかもしれません。

また、STEAM教育は分野横断的な学習を教科書の上にとどめるのではなく、現実の問題に落とし込みます。具体的には人口動態等のデータに基づいて地域の課題を分析し解決策を考えたり、疑似的に感染症の拡散を再現する実験を行い感染症拡大防止のための方策を考えたりするなどです。多くの国で就職と同時に即戦力として働くことを求められるのとは対照的に、日本では学校は学ぶ場、職場は働く場、と長らくすみ分けされていました。基本的に社会に出てから長期間の教育を受け、本格的な仕事を開始することになります。STEAM教育はそんな学校と職場のギャップを埋め、新社会人がより早く職場に適応し戦力となる助けにもなり得ます。

まだ聞き馴染みがないものですが、日本の教育や社会を良い方向に変える一手となる可能性も高いと思います。今後の展望に期待です。

 

 

参考

4月30日付 朝日新聞デジタル 「『社会課題を解決できる人材に』教科を融合、広がるSTEAM教育」

 

2月26日付 寺小屋朝日for Teachers 「STEAM教育とは?編集部が解説」

STEAM JAPANホームページ 「STEAM教育対談 なぜ今、STEAM教育?」