「鳥語」 言葉は人間だけのものじゃない

以前飼っていたセキセイインコは、筆者よりも冗舌でした。テレビの野球観戦が好きなわが家の一員らしく、口癖は「ハイライト」。家族が何回も口にするために覚えたのでしょう。

筆者が飼っていたセキセイインコのパル。アルビノのオスです(2016年5月撮影)

インコは人の言葉をまねします。本当に理解しているのかと思うほど、とても上手にしゃべったり歌ったりする鳥もいます。でも、もちろんインコだって「ピヨピヨ」と鳥らしく鳴く時があります。

さて、「ピヨピヨ」という鳴き声に、単語や文法があると考えたことはありますか?

鳥の鳴き声は単語を使い分けておらず、「うれしい」や「危険を感じる」などの感情を鳴き方の変化で表すだけのもの。そう考えている方が、ほとんどなのではないでしょうか(「ピヨ」に何かの意味があるとはとても思えませんよね)。

鳥好きの筆者も、きのうまでは鳥だけの言葉がどんなものか想像もできませんでした。キーワードは「鳥語」。おもしろい研究を見つけたのでご紹介します。

筆者が小学6年生の時の日記。パルが話した(?)言葉が書いてある

「鳥語」ってなんだ

18日付の朝日新聞朝刊を開くと、興味をひく記事が目に飛び込んできました。見出しは「『鳥語』はある 森に通い証明」という記事です。大胆にも「鳥語」がある、と断言しています。人間のように話すのでしょうか。

記事で紹介されたのは、京都大学白眉(はくび)センター特定助教の鈴木俊貴さん。鈴木さんは、シジュウカラの鳴き声の研究を続けています。

シジュウカラ Photo by Laitche, CC 表示-継承 4.0(Wikipediaより引用)

記事によると、シジュウカラが鳴き声を言葉として使い分けていることを鈴木さんが証明したそうです。人間と同じように文法(語順)を操り、文章まで作っているのだとか。たとえば、天敵のヘビを「ジャージャー」とシジュウカラは鳴き声で表しますが、同じく天敵のタカの場合は「ヒヒヒ」と鳴いて仲間に警戒を呼びかけるのです。

 

「約20の単語とその組み合わせで200パターン以上のメッセージがあるのではないかと推察しています」(鈴木さん・朝日新聞より)

これらは、森林での観察・実験の結果から判明しました。鳥が音声でコミュニケーションを取っていると分かってはいても、単語があるかどうかまでは、これまでは明らかになっていなかったそうです。「言葉を使えるのは人間だけ」という思い込みを破り、鈴木さんは「シジュウカラ語」を解明しました。

鈴木さんの解説スライド(朝日新聞より引用)

筆者は、人間だけでなく、動物や植物にも種に応じた独自のコミュニケーションがあるだろうとは考えていました。しかし、鳥の鳴き声がそのまま何かを表す。つまり人間と同じように話すのだという研究成果には意表を突かれました。

人間の言葉も言語だけじゃない

言葉は人間だけのものではない。一方で、人間の言葉にもいろいろな種類があるのではないでしょうか。言葉といわれてすぐに思い付くのは、いつも口にしている「日本語」や「英語」といった言語ですよね。

最後にご紹介したいのは、小川洋子さんの著書『博士の愛した数式』です。同書は、記憶が80分しかもたない博士と、その家で働く家政婦とその息子との心温まるストーリーです。お話はもちろん素敵ですが、数学にまつわる話もたくさん出てきます。

登場人物の博士は、いろんな物事を数学にたとえて話します。たとえば家政婦の誕生日の「220(2月20日)」と自分の時計に刻まれた数字「284」とがどちらも「友愛数」であるとし、その偶然を彼は「美しい」と賞賛しました。

筆者は数学が苦手なので、この本を読んで、ピンとこないところが正直ありました。一方で、数学を基準に物事を考える人がいるのだと気付かされました。言葉は、物事に新しい枠組みを与えます。世界を数学で捉える人がいるのなら、その人にとっては数学も言葉なのでしょう。

それは音楽にだって、道路標識にだって、いえることなのではないでしょうか。さまざまな言葉を学ぶことは、新しい世界に出会うことなのです。

「この数式に隠された意味を知っている者は限られている。その他大勢の人々は、意味の気配すら感じないで生涯を終える。今、数式から遠く離れた場所にいたはずの一人の家政婦が、運命の気紛れにより、秘密の扉に手を触れようとしている」(『博士の愛した数式』より)

参考記事:

18日付 朝日新聞朝刊(13版)21面「『鳥語』はある 森に通い証明」

参考資料:小川洋子『博士の愛した数式』