実名報道は加害者への罰? 意義と影響を考える

2021年10月に甲府市で残虐な事件が起きた。50代の夫婦二人が殺され、その長女も頭に傷を負った放火殺人事件である。その容疑者である19歳の少年が実名報道されたことが論議になっている。筆者は今20歳。犯人と年齢が近いということもあり、世間の反応に関心を持っている。

22年4月1日に施行された改正少年法によって、18、19歳は「特定少年」という位置づけになり、事件の重要性によっては実名報道が可能になった。今回の事件は、改正法に基づき、特定少年である犯人の名前と顔写真が報じられた初めてのケースになる。更生と健全育成を理念とする少年法を尊重し、一部で写真の掲載は控えるなど、メディア各社で対応が分かれたが、ほとんどが犯人の氏名公表に踏み切った。

今回、実名報道を行ったメディアは、事件の重大性と社会的関心の高さを決め手に挙げたが、私もその決定に賛同する。19歳という年齢のことを加味しても、3人の死傷者を出したこの事件の公共性は高いと思うからだ。「19歳の少年」という抽象的な情報では真実味に欠け、詳細も不明確なままとなる。事件を教訓として今後に生かすためにも、公共性の高い事件に関しては、特定少年であっても実名を公表し、事件のバックグラウンドを明らかにしなくてはならないと考える。

TwitterなどSNSでも、否定的な意見より、むしろ当然だとする肯定派の意見が多い印象を受けた。特定少年の扱いのあり方に関する意見も少なくない。そうしたなかで筆者の目を引いたのは、実名報道を加害者に対する制裁として捉えた主張だった。例えば、「未成年だからと言って、加害者側が実名公開による社会的制裁から保護されるのは許せない」というような意見だ。ここでは、実名報道が加害者に対する「罰」として捉えられている。

結果として、実名報道が加害者側に罰として働き、受刑後の生活に影響が出かねないことは事実だ。なかでも特定少年を含む若者の更生と社会復帰をより難しくしている可能性も考えられる。しかし、実名報道は決して加害者への罰を目的としたものではなく、その意義は公共性にある。だからこそ、メディアはそうした判断に至った経緯を丁寧に説明するとともに、実名報道された加害者のその後に対しても、腰を据えて取材を続けていく必要があるのではないだろうか。

 

参考記事 :

12日付 読売新聞朝刊(埼玉13版)35面(社会)「甲府殺人『実名』が多数」

12日付 朝日新聞朝刊(埼玉14版)31面(社会・総合)「特定少年 19歳を殺人罪などで起訴 全国紙5紙は実名報道」