戦争が始まってから3週間が経過しました。当初はキエフが数日で陥落することが予想されたものの、ウクライナ軍は現在も持ち堪えています。戦線は膠着した状態で、民間人の犠牲を伴う消耗戦の様相を呈してきました。誰も得しない勝者なき戦いは、早々に停戦して欲しいものです。平和を祈ります。
そもそも、今回なぜロシアは無理筋の戦争を仕掛けたのでしょうか。予想外の苦戦を強いられても未だに退却しない強引な姿勢は何から生み出されたのでしょうか。筆者は「歴史認識」の問題が大きいと考えています。
3年半前に参加した国際交流事業で、モスクワの大祖国戦争博物館を見学しました。この博物館はまず建物の規模が非常に大きい。外観だけでもインパクト抜群ですが、館内の展示も圧巻です。第二次世界大戦中の独ソ戦を再現したジオラマが多数並んでいます。最も印象的だったのは、戦争を紹介する動画の上映。リアルな演出と爆音の嵐に圧倒されました。(※以下は全て18年9月筆者撮影)
街がナチス・ソ連両軍の戦車に蹂躙されたものの、なんとかソ連が国土を守り抜いたということが分かった。精巧なジオラマと圧倒的な動画の演出に感動した!
当時の筆者の手記には平和ボケした愚かな感想が半ば興奮気味に綴られています。このような博物館を見学したり、戦争を賛美する行事に毎年参加したりしていれば、好戦的な国民性や歪んだ愛国心が醸成されるのも無理はないだろうと思いました。ちなみに、この博物館はロシア経済が混乱していた90年代半ばに建てられています。財政難の状況下でも莫大な費用をかけて建設したことから、政府がいかに歴史教育、もといプロパガンダの発信を重視しているかも窺えました。
地下鉄に乗ったことも覚えています。モスクワ地下鉄といえば、独ソ戦の空爆や核戦争から逃れる防空壕を意図して建設されたため、地中奥深くに駅があること。そして、駅構内に豪華絢爛な装飾が施されていることで有名です。最も驚いたのは、第二次世界大戦の戦勝記念のラッピングが施された車両が走っていたことでした。70年以上も前の戦勝を未だに誇っている国は他にあるでしょうか。
地方都市リャザンの歴史・民俗博物館を見学をした際は「タタールのくびき」がロシア史の転換点として大きく扱われている旨聞きました。13〜15世紀にかけてモンゴルの支配を受けて、ロシア人は苦難を強いられたそうです。民族の区分や国土の領域がはっきり定まっていなかった中世の出来事を根に持つことに、違和感を覚えました。過剰な被害者意識の原点かもしれません。
これらのプロパガンダや歴史認識の類は世界中どこの国でも観測されうるものです。程度の差はあれど、日本でも歴史修正主義が一部で広まっています。ロシアの場合は、大統領が完全に洗脳され、与党もろとも誤った歴史教育に全力を注いできたことが、今般の戦争勃発の遠因であると筆者は考えます。早晩、停戦に至ったとしても、この問題の解決は容易ではないでしょう。