介護施設のDX 実情に見合う導入を

政府が介護施設の人員基準を緩める検討作業に取り掛かりました。現在の基準は、入居者3人に対して1人の介護職員を配置するというもの。2022年度中に介護ロボットなどを活用した実証実験のデータを集め、1人の介護職員に対して4人の入居者という比率への転換を目指します。

介護ロボットは、事務作業のみならず入所者をベッドから移動させる介助などにも導入します。政府が参考にするのは、介護大手のSOMPOケアの取り組み。心拍や呼吸数の把握による見守りの最適化、体の状態の記録などにもデジタルの導入を進めています。

こうした現場でのDXの効果によって、介護職員1人が4人の入居者を看ることができるようになると見込んでいるようです。団塊の世代が後期高齢者となる2025年には、職員32万人が不足します。更に40年には69万人が足りなくなるという試算もあります。こうした人材不足の危機を、1人あたりの対応人数を引き上げる形で乗り切る狙いです。

しかし、入居者のケアの質が低下しないかを慎重に見極める必要があるのではないでしょうか。介助ロボットだけが入居者の健康観察にまわるなど、身の回りの世話の大半を担うようになれば、人と人との会話がなくなり「フレイル」の危険性が高まります。

高齢者にとって、会話は認知機能を支える重要な役割を担っています。クラスターに見舞われた介護施設では、職員の懸命な努力によって入所者の命を守ることはできたものの、深刻なフレイルが発生したといいます。隔離によるためです。職員との会話や触れ合いの消失により脳の機能が短期間のうちに後退してしまったといいます。

内閣府の2018年の調査でも毎日会話をしている人では、「健康状態が良い」と認識している人が90%にのぼっており、会話と健康の関係性が示されています。

また、関連記事には、新たな業務負担増を不安視する声が取り上げられていました。現場が手助けを求めている現状に耳を傾けながらも、「助け方」を模索する必要があると思います。厚生労働省の調査に目を通すと、介護施設職員の方が回答した「勤務継続にあたり、重要と思うもの上位3つ」が示されています。1位は仕事へのやりがいがあること(36.6%)、続いて能力や業務内容を反映した給与体系(31.4%)、3位は上司や同僚等を含めた職場全体の雰囲気がよいこと(27.8%)となっており、現場の環境と給与体制に強い関心があることがわかります。

介護ロボットの導入を検討する際は、書類や配膳などの入居者に直接関わりがない業務への移行に限り、職員が重視する入居者と対面したケアの質向上では支援役に留めるべきだと思います。また、DX化により介助者が担当する入居者の数が増えてしまっては負担の減少、質の向上には繋がらないと思われます。1:3の維持にとどめるべきではないでしょうか。そしてやはり、人材確保のための賃上げから目を背けてはならないと思います。

必要なことはあくまで入居者の方に対する介護の質を上げること、人材を「増やす」ことです。デジタル化は、あくまで負担減の一助にとどめるべきだと思います。