昭和レトロ街を歩く 再開発の進む立石

日経新聞のNEXTストーリー、ご覧になったことはありますか?一つのトピックを掘り下げた連載記事で、ディープな取材が特徴です。本日のストーリーは「若者なぜ昭和レトロ」第4回。親が若い頃着ていた服のお下がりを「エモい」と喜んで着る若者について書かれていました。

日経電子版では全4回分一度に読むことができる

因みに第1回は、台場一丁目商店街などの施設をプロデュースした昭和レトロブームの仕掛け人について。昭和に対して、若者は外国に来たような、タイムスリップしたような非日常な感覚を楽しめる。この点が魅力だそうです。

昭和レトロ=非日常を感じた瞬間は、先月立ち寄った京成立石駅で訪れました。立石は、「1000円あればベロベロに酔える」という俗説から、「せんべろ」の愛称で知られています。駅前はノスタルジーを感じる居酒屋、スナック、バーなど中小の飲食店が密集しています。駅前商店街の東側には「呑んべ横丁」が。

「呑んべ横丁」入口/北口(本日筆者撮影)

まだ夕方の5時だというのに行列ができている飲み屋までありました。迷った挙句、焼き台と厨房が中まで見える飲み屋「ミツワ」に入りました。「お姉さんいらっしゃい!」威勢の良い女将さんの声が響き渡ります。天井にはファンが剥き出しの扇風機、地面の赤タイルは所々剥がれ落ち、ブラウン管テレビからはニュースが流れる。年季の入った空間は、昭和そのものです。焼物一串120円、名物のもつ煮込みは360円と破格の値段です。これに430円のレモンサワーを飲んでお会計910円。「せんべろ」の意味を実感した瞬間でした。「ミツワ」は創業60年、ご当主は3代目になるそうです。

もつが有名な飲み屋「ミツワ」の外観/南口西(本日筆者撮影)

風情漂う京成立石駅周辺ですが、現在は南口東、南口西、北口の3地区で取り壊しが計画されています。駅北口では区役所の一部も入るオフィスビルとタワーマンション、南口でも34階建てのタワーマンションなどが建つといいます。1997年から計画が進む再開発です。竣工は2028年を予定しています。

散策する中で、偶然にも区役所の出先機関「葛飾区立石駅周辺地区まちづくり事務所」を見つけ、飛び込みました。「台風19号や震度7クラスの地震には耐えられないほどこの地区は脆弱なんです」。インタビューした職員の言葉が印象的でした。道路などの都市基盤が未整備のまま一気に市街化したため、 狭い街路が多いうえ、老朽化した木造家屋等が密集するなど、防災の上で深刻な課題をかかえているとのことです。立ち退きが決まった住民には、補償金が支払われ、新居への入居の手配がされると言います。

職員の方にいただいた再開発地域の地図

話を聞いている限りでは、インフラの強化は必要不可欠にも思えます。ただ、商業地として長らく発展してきたこの地に住む人々の中に、異論を唱える人がいることも合点がいきます。

「もうすぐ無くなりますんで。そりゃあ悲しいですけどね」。帰り際に寄った創業100年を超える「木村豆腐屋」の女将さんの言葉です。悲しそうな表情を浮かべていました。

筆者も埼玉県内の商店街に住んでいますが、コロナ禍であってもその通りを歩くだけで温かな気持ちになれます。店主と客という関係を通り越した交流の場となっているからそう感じるのでしょう。私の愛する商店街は立石と比べれば歴史は浅いですが、思い出の詰まった土地が取り壊されるとしたらショックだと思います。

第三者の私は一方の意見に与することはできません。ただ、話を聞いて回る中で、立石という街の魅力は存分に知ることができました。「ミツワ」でお客さん同士が気軽に話す光景は、都会ではなかなか見られません。

昭和レトロがブームとなる令和の世、若者の皆さんも今のうちに訪れてみてはいかがでしょうか。

立石仲見世商店街/南口西(本日筆者撮影)

参考記事:

25日付 日経新聞朝刊 埼玉 35面 Nextストーリー若者なぜ昭和レトロ『「友達親子」価値観を共有』