「厚底シューズ」 リスクもしっかりと理解を

今月の2、3日に行われた第98回箱根駅伝。青山学院大学が10時間43分42秒の大会新記録で、2年ぶり6回目の総合優勝を飾った。

毎年テレビで見ていて、気になるのは選手の多くが同じ靴を履いていることだ。彼らが使用しているのは、厚底シューズ。代表的なものは、アメリカのスポーツ用品大手「ナイキ」のモデル。昨年の箱根駅伝では9割以上の選手が履いていたという。

今年は各社の開発競争が進み、ナイキは約73%、他はアディダスやアシックスなどを着用していた。

反発性の高い素材やプレートが使用されており、その機能によりエネルギー消費を抑えられるという効果がある。環太平洋大学の吉岡利貢教授の研究によると、一定ペースで走る選手の体内に取り込む1キロあたりの酸素量が、薄底シューズの時と比べ、約6%(時速17キロの場合)減少したそうだ。

このデータを活用し、薄底でマラソンを2時間29分前後で走る選手の厚底での推定タイムを算出。すると、約8分も短縮できることがわかった。

これらのデータを見ればその効果は一目瞭然だ。近年、好記録が続出している箱根駅伝だが、厚底靴はその要因の一つとなっている。道具だけで勝敗が決まるわけではないが、選手にとって勝つための大きな武器だ。

高校時代、陸上部だった筆者も長距離種目を専門とする友人の厚底シューズを履かせてもらったことがある。走った時の反発はもちろん、自分が履いていた薄底のシューズの時と比べ、足がどんどん前に出ていく感じがした。「長距離が苦手な自分でも、これなら少しは走れそうだ」と思ったのを覚えている。

駅伝だけに限らず、マラソンなど長距離種目では高速化が進んでいる。競技を観戦する側として、スピード感のあるレースや好記録が生まれる瞬間を目の当たりにできるのは面白いし、喜びでもある。選手にとっても、より早く走るために、厚底という手段を選ぶのは当然だろう。

その一方で、厚底特有のケガのリスクも出てきている。薄底と比べ、厚底は約3%接地時間が短くなるそうだ。これにより、股関節付近を怪我しやすくなるという。早大スポーツ科学学術院の鳥居俊教授の行ったアンケートでは、厚底を履いた選手の股関節付近の怪我が2倍越となったことがわかった。

記事では、特に若年層へのリスクについてこのように述べられている。

若年層への影響について、鳥居教授は「成長軟骨が残っている状態では骨の発育に影響する可能性もある」と指摘。

今や厚底は、トップの選手だけが使用しているものではない。筆者が高校生だった5年ほど前から、既に大会では多くの高校生選手が履いていた。近所で見かける市民ランナーの人でも履いている。少しでも速く走るために、1秒、1センチを削り出すためにという気持ちはとてもわかる。

ただ、このような怪我のリスクがあることは多くの選手や、一般のランナーの人もしっかりと理解した上で使用するべきだ。練習の時は違う靴を履いたり、履く頻度を減らしたり、道具とうまく付き合っていくこともこれからのランナーには必要なことなのかもしれない。

 

 

参考記事:

2022年1月7日付 読売新聞オンライン「厚底シューズの故障リスク…接地時間減って衝撃大、青学大・原監督は「ケガの場所が変わった」

https://www.yomiuri.co.jp/hakone-ekiden/news/20220106-OYT1T50243/

2021年3月8日付 読売新聞オンライン「厚底シューズ効果」見える化、薄底と比較で「まるで別選手」

https://www.yomiuri.co.jp/sports/etc/20210305-OYT1T50123/