留学への思いと金銭の負担 「後戻りできない」

南アフリカで相次いで確認されたオミクロン株。8日の朝日新聞では「まだよくわからない」段階で、各国が警戒を強めていると述べていました。日本でも感染例が報告され、政府は水際対策を強化するなど、対策を急いでいます。紙面で目につくのは海外からの留学生受け入れに関するもの。一方で、出国する日本人留学生に関する記事はなかなか見当たりません。実は年末も近づくこの時期は、1月からの留学を控える大学生にとっては大忙しの時期です。コロナ禍での留学には大きな壁がいくつもあると言い、特に出発前の手続きや金銭面での悩みが多いそうです。今回は12月26日にシンガポールの大学への留学を控える九州大学の男子生徒Aさん(21)に話を聞きました。

どのように留学が決まりましたか。

もともとは2年(2020年)の夏からイギリスへ行く予定で準備してきました。しかし、その春に感染爆発していたイギリスへの渡航が不可と、国と学校から連絡がありすごく落ち込みました。それでも留学ができる可能性にかけて、書類の提出と面接を再度行い、2年の夏に3年生夏からのシンガポール行きを決めました。シンガポールは1年行く予定でしたが、3年(2021年)の春にシンガポールの感染者がいきなり増えだして、先方から留学を拒否されました。もうだめかと思いましたよ。でも、9月ごろに「2022年の1月から5月まで行ける」と急に言われて、びっくりです。

コロナ禍ですが留学に行こうと思った理由は。

九州大学が提携している海外の大学との交換留学は高校1年ぐらいから考えていて、大学1年生(2019年)の夏からずっと応募していたからです。留学体験をしておきたいという思いがありました。海外の学部に入学しようと思っていたけど、金銭的に厳しかったからせめて交換留学でも、という思いがありました。他にも1年生の時に留学先の国によって支給される月額が決まる奨学金をとっていたことも理由の一つです。交換留学だと社会人で行くよりも安いから、交換留学ができる大学の学部時代に行っておきたいという思いもあります。親はあまりいい顔はしていないけど、自分の判断にゆだねてくれていると感じていて、国の指示に沿って手続き、行動していたら人に迷惑をかけることは多くはないと思っています。そこへの後ろめたさは少ないです。

現在、文部科学省は留学を予定・考えていた日本人学生等に、感染の拡大の可能性や現地の状況が悪化する可能性も十分に考慮し、留学の是非や延期について改めて検討するよう要請していますが。

留学の申請をしていない状況なら、今から行こうとは思わなかったです。すでに留学への準備を始めてしまっており、心理的に後戻りができない状況になっています。大学1年生(2019年)の時に留学へ向けて力を入れて、奨学金をとったり、英語対策をしたりしたし、すでに金銭的にも時間的にも投資したものが大きいのです。申請や奨学金をとる過程での努力は留学を諦めれば無駄になる気がして。引き返せないのが正直な気持ち。

出国まで2週間ほどですが、ここまで来るのに多くの困難があったと思います。

9月ごろに急に留学へ行けると大学を通して連絡が来てからが大忙し。留学先の大学に入れたり、英語力の証明や履修の申請をしたりしました。11月にやっと受け入れの許可がでて、交換留学がほぼ決定です。そのあとに学生用のビザ(Student Pass)と学生寮の申請、ワクチン接種証明の取得を開始しました。他にもコロナ禍なので隔離施設を前もって取らないといけないため個人で予約を取ります。

正直不安ですね。シンガポール政府と受け入れ先大学に問い合わせをしている状況です。シンガポール政府とのやりとりが多いなど手続きが複雑で、分からないところを問い合わせています。どこまでが渡航前にすべきことなのか、渡航後で済むのか分からない。いつでも渡航できる状況か不明なのも不安です。

出入国の申請の中で大変なことは何ですか。

隔離施設の確保が圧倒的に大変。普通は旅行会社のサイトからホテルを予約するが、隔離部屋を用意しているホテルとそうでないホテルは違う。一般客向けと値段が異なり、隔離者用の値段はサイトに一切載っていないため、隔離施設に指定されているホテルにダイレクトにメッセージを送らないといけない。値段が本当に高い。7日間のホテル隔離なので7泊8日、安くて10万円前後かかる。高いと20万、30万円ぐらいじゃないかな。普通だと安くて3万ぐらいだから…。けれど何より支払方法がネック。一般客の旅行予約は旅行サイトを通じるからクレジット払いができるけど、隔離施設の場合は安いホテルに限定するとクレジット払いできないところが多い。バンクトランスファーという海外送金になるけど、日本の銀行はマネーロンダリングなどで海外送金に慎重になっているため、その審査だけでも最低でも3日、長くて1か月はかかる。一方でホテルからは「24時間以内に支払いを済ませて」など時間的制約がかかります。今回取ったホテルは7泊94800円でクレジット払いだけど、学生の身からすると安くてクレジット払いができるホテルがもっと欲しい。ほぼ自分での負担だからね。

隔離施設の支払いが自己負担と言うのは…。

今回私が取得しているのは、滞在費のみの奨学金です。授業料は交換留学なので新たに必要というわけではありません。渡航費は大学から出て、往復で10万円のみ。隔離分は自己負担になってしまいます。本当はサポートが欲しいです。

困ったことが多かったと思いますが、頼ったところはどこですか。

大学の留学課の人や留学先の担当者さんは個別に質問ができるので頼りやすかったです。他にも留学経験が豊富な学部の先生にも頼りました。

これから先、シンガポールも入国が拒否されるかもしれませんが…。

出国までの2週間の間に留学や入国が拒否されるかもしれないか不安です。隔離施設の料金は払ったけど、返金は不可。それに海外保険のお金や書類の発行料金などで出費はかさんでいます。留学に行けなければ経済的損害はかなりになります。

コロナ面はそこまで怖くないです。日本に帰れなくなることへの不安は確かにありますが、帰国予定の5月までには状況が変わっているだろうと思っています。仮に入国拒否が続いていたとしてもそれはそれで人生経験になるんじゃないかな。

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大学生にとって金銭的負担は悩みごとの一つ。慣れない中での申請は不安なことも多いでしょう。コロナ禍で留学することは「危険だ」との声も聞きますが、彼らの努力を知れば見方が少し変わるかもしれません。金銭的補助だけでなく、出国までの手厚いサポートも増えればと願うばかりです。

 

参考記事:

8日付 朝日新聞朝刊3面(福岡14版)「オミクロン株 なぜ警戒」

9日付 読売新聞朝刊11面(福岡12版)「国会論戦の詳報」

参考資料:

文部科学省ホームページ「留学中・留学予定の日本人学生の皆さんへ」

在シンガポール日本国大使館

外務省 海外安全ホームページ