大学という機関を最大限活かすために

大学での学びが面白い。そう感じる瞬間はどれほどありますか。

「憲法のこの言葉の解釈が、この本とあの本で違うけど、なぜだかわかる?」

昨日の授業でのこと。「学校教員は『日の丸に向かって起立し国歌斉唱をする』という職務命令に従わなければいけないのか」という問題について発表している最中、先生から質問が投げかけられ、自分があいまいにしか理解していなかったことに気づかされました。そうか、重要な論点はここなのか。この学者とこの学者ではこの前提をめぐって対立しているのか。先生との議論で、今まで断片的だった知識が繋がり、それぞれの位置関係が立体的に見えてきます。一気に頭の中が整理されていく、面白くて気持ちの良い瞬間です。

この授業を履修している学生は二人だけ。演習形式の授業なので、1回おきに発表の順番が回ってきます。他の授業より準備の時間がかかるため敬遠されがちですが、一般的な講義型の授業に比べて学んだ実感は大きく、学問の面白さを感じることができます。こういう授業に出会えると、ラッキーだなと思います。高い学費を払って大学に通う価値を感じます。

逆に、これでは深い学びに繋がらないのでは、と思う経験もありました。

例えば、とてもペースがゆっくりで、かつ教員が自分の調べてきたことをプレゼンするだけの授業。社会問題や現状を並べられるだけで、どう解決に向かえば良いのかという多角的な検討が非常に薄っぺらで、学生もほとんど話を聞いていません。時間配分が計画的でないし、授業で扱いきれなかったところは「あとは読んでおいてください」。その代わり簡単に単位が取れる、いわゆる「楽単」と呼ばれる授業です。

「日本の大学生は勉強しない」と言われて久しいですが、こういう授業がまかり通っていることが、その一因だと思います。その背景には、大学での成績がほとんど就活で重視されないこと、大学という教育機関で学ぶことの意義を深く理解することなく受験を迎える人が多いことなどがあるでしょう。

もちろん、日本の大学のスタイルだからこそ、4年間の大学生活を自分なりに組み立てられるメリットはあります。楽単を選べば、自由な時間ができる分、課外活動に精を出したり、思い切り遊んだりできます。そこで得たことを大学での学びと結びつけ、就職後に社会へ還元することだってできるかもしれません。私自身、「楽単」の恩恵を受けたことは何度もあります。しかし、4年生になって振り返った今、それでは大学という高等教育機関での4年間が勿体無いのではないかと感じます。

その道を研究し続けてきた専門家と議論できる機会は、なかなかありません。私はこうしてあらたにすの活動を通じて自分の考えをまとめて、発表してはいますが、それに対する具体的な評価や反論を、その分野を専攻していた人から聞く機会は極めて少ないと感じています。教授と接する機会を利用して、とことん自分の考え方に磨きをかけるのは、かけがえのない経験です。答えのない問いに立ち向かう力となり、社会課題の解決を導くことができるのではないでしょうか。

大学が最大限活かされるために、まず私たち学生にできることは、教員らと積極的にコミュニケーションをとることだと思います。授業でわからなかった箇所、自分のレポートに対する評価で納得していない部分について、直接質問しに行くことで学びを深められます。授業で提示された社会課題に対する解決策を考え、それに対する評価を求めるのも良いでしょう。こうすることで、教員側も、学生の興味がどこへ向いているのか知ることができますから。

また、あまりにもシラバスの内容とかけ離れた授業であったり、内容のない授業であったりする場合には、早めに教務課に相談してみるのも良いと思います。学期末の授業評価アンケートに回答するだけでは、たとえ改善されても自分に利益が還元されないからです。

「大学は学生が自ら学ぶ場所」とは言いますが、それでも、その授業の時間の主導権を握っているのが教員である以上、学生が深い学びを得られるような仕掛けを用意するのは大学側の責務ではないかとも思います。テストの評価基準や解説の公開を徹底すれば、学生が自分の理解度を高め、今後の課題を把握できることにつながるでしょう。また、学習の早い段階で課題を提示し考える機会を設けることは学びのモチベーションの向上に繋がると思います。

教員一人ひとりの気構えも問われます。自身が大学での学びや議論することの意義を言葉で伝えるのも効果的ではないでしょうか。また、学生の発表ベースの授業の際、調べが不十分、理解不足である学生には、その状態で発表してはいけない、わからないところは事前に聞きにくるようにと、きちんと伝えることも必要だと思います。

「とりあえず大学進学する人が多い。『人生の夏休み』だから、本当に学びたい人なんて少ない」と大学側が考え、「授業が面白くない。自分の力にならない」と学生側が考えているようでは、今のまま変わらないと思います。学生自身を含め、大学に関わる人たちが学びに向き合うことで、その成果が血肉となり、社会で生きる力に繋がるのではないでしょうか。

 

関連記事:

11月30日付 日本経済新聞朝刊(愛知11版)31面(教育)「学会、世界で競争不可避に」