楽しみにしていたドラマが先週から始まった。テレビ朝日の金曜ナイトドラマ『和田家の男たち』だ。普段めったにドラマを見ない筆者を惹きつけたのは、「マスコミ三世代、ひとつ屋根の下」というキャッチコピー。異なるメディアに携わる和田一家が繰り広げるホームドラマだ。
主人公はネットニュースの契約記者である息子、和田優。コロナ禍で、14年勤めた会社が倒産し、大学の後輩の紹介でネット記事を書き収入を得るようになる。テレビ局で報道番組の総合プロデューサーを務める父、秀平、そして大手新聞社の論説委員である祖父、寛(かん)との同居を始めるところから物語は始まる。
もちろん三世代が織りなす不器用な交流や優がつくる手の込んだ料理も見どころの一つだが、やはり注目すべきは3人が報道に携わりながらもその手法が異なるという点だろう。実際に劇中では仕事風景と共にネット、テレビ、新聞での報道の違いが分かりやすく描かれている。
例えば見出しの違い。10文字前後の見出しを見ただけでニュースの概要が伝わる新聞やテレビとは違い、ネットニュースはインパクトを重視する。つい本文が読みたくなる題名作りには、読者がクリックするひと手間を得るためにキャッチーさが求められている。ドラマでも優が、興味をそそる見出し作りに挑戦している。
各メディアへピリッと皮肉が効いているところも面白い。新聞社勤めの寛が、コロナ禍での政府方針を批判できないテレビ報道をダメだと評価したり、テレビ局勤めの秀平が、取材せずこたつに入ったまま記事を書くネットニュースの「こたつ記者」を批判したり。皮肉の中には、急速に進むネット社会への戸惑いも反映されている。優が書いた記事に誤字を見つけた寛が、「校閲は何をやっている、無責任だ」と怒るシーン。後から訂正できるネットならではの発信方法、そしてビューを稼ぐことがプライドだという優の言葉を聞き、価値観が変わっていくことは止められないと諭す秀平。来年からオールドメディアの世界で働く筆者にとっては、胸が痛い話だ。
あくまでもフィクションなので、劇中のメディアと現実のそれを同一視することはできない。実際、旧来からの媒体に加えネット上でのニュース配信に意欲的な新聞社やテレビ局はいくつもある。頭だけでなく足で情報を引き出すネット記者もいるだろう。しかし先に述べたように、劇中でも描かれる各メディアの課題は決して軽視できるものではない。和田家の生活を覗いて笑っていられるのは今のうちだけ。来春からは、筆者も否応なく向き合うことになる。
参考記事:
29日付朝日新聞朝刊(13版)33面「衆院選控えめなテレビ」
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