財政破綻したまち・夕張 それでも住み続ける人々

京都市は5月、財政再生団体に2028年度にも転落する恐れがあるとして、収支を改善するための行財政改革案を公表した。財政再生団体とは、財政状況が著しく悪化し、事実上、国の管理のもと再建に取り組む地方自治体のことである。「実質赤字比率」「連結実質赤字比率」「実質公債比率」のいずれかの指標が一定の基準を超えるとこれに指定される。つまるところ、借金まみれで立ち行かない状態に陥ったということだ。

とうとうそういう時代か、私は思った。コロナ禍によって国や自治体の支出は増え、危機が迫っていることは間違いなかった。だからと言って休業を余儀なくされている事業者への持続化給付金や医療支援などをなくすことは現実的でない。私も世間も財政健全化の大切さに何となく目をつむってきたように思う。しかし、厳しい現実を直視せざるを得なくなってきているのである。

エコノミストの中には、貿易やサービス取引、海外からの利払いなどを足し合わせた経常収支が黒字を維持できる限り、日本が財政破綻となる事態はあり得ないという楽観論を展開する人もいるが、少数派にとどまる。国や自治体の財政が破綻すると、どうなってしまうのだろう。

 

北海道の夕張市は、現在、国内で唯一の財政再生団体だ。もともと石炭の採掘が盛んだったが、石炭から石油に移行する「エネルギー革命」以降、閉山が相次ぎ、1990年にはついに、市から炭鉱がなくなった。

これにより、鉱山会社が鉱員向けに設けていた施設を市が買い取ることになった。例えば、82年には炭鉱会社の北海道炭礦汽船が所有していた病院を市に移管。その際、市は40億円を負担している。このような「炭鉱閉山処理対策費」は総額583億円に達した。

82年12月20日付の北海道新聞は「財政再建団体への転落必至」と報じた。その後、産炭地域振興臨時措置法の失効やヤミ起債問題で、財政状況はさらに悪化。2007年3月に財政再建団体から名称が変わっていた財政再生団体に指定された。

筆者は以前、夕張に行ったことがある。その時は昼間なのに閑散としていた。北海道の地方部は車社会なので、歩道に人影は少ないが、夕張の場合は車すらまばらだ。みんな何をしているんだろう。

市役所にも行ってみた。建物が建てられた時は人口が47,000人近くあったが、今は約7,000人(2021年8月末時点)で、40年以上建て替えられていない大きな庁舎が虚しく感じられた。

夕張市役所。5階建てで、大きい。(筆者撮影)

人口だけでなく、市独自の権限も縮こまっている。財政再生団体では予算を独自の判断で編成することは許されず、国との協議が必要となる。予算の決定は自治の根幹である。夕張市は自治があまり認められていない「自治体」なのだ。

筆者は市役所でトイレを借りてみた。「お手洗い」の標識があるが、矢印の先は真っ暗。「え、どこだ?」。見回して照明のスイッチがあることに気づいた。下には「節電」の文字。電気代の削減も徹底している。

夏はまだいいが、冬の節電はつらい。夕張は気温がマイナス10度を下回るが、朝日新聞の記事によれば、午後5時半になると、庁舎の暖房が一斉に切れる。1階の市民課では、玄関からの冷たい風が職場に入り込まないよう、通路に段ボールや断熱材を置き、コートを着て残業する。

玄関からの冷たい風を防ぐため、段ボールで仕切りを立てている(朝日新聞デジタルより)

もちろん、コストカットは市役所にとどまらない。財政破綻後は、公衆便所や小中学校など公共施設が次々と閉鎖された。また、下水道使用料は10m3あたり1470円から2440円に値上げされ、軽自動車税、施設使用料もそれぞれ以前の1.5倍以上に。これらのこともあって人口は破綻の前後(2005年10月と2008年10月)で12.72%も減った。この数字は全国の市区町村で4番目に大きかった。

夕張市のホームページには、「借金時計」というページがあり、期限をにらんだ地方債、再生振替特例債の返済額と残高が秒単位で表示される。全額を返済する予定の2027年3月を市と市民が待ち遠しく思っていることが伝わってくる。

夕張市のホームページにある「借金時計」。1秒ごと数値が変わる

「昔はね、本当にいっぱい人がいたんだよ」。個人経営のレストランの店主は、少し寂しそうにそう言った。店主は、生まれも育ちも夕張。この街の栄枯盛衰をその目で見てきた。炭鉱が閉山した後、市の「炭鉱から観光へ」の方針はバブル崩壊まで一定の成果を収め、多いときは1年で230万人もの観光客が訪れたという。2年前に市内を走るJR石勝線夕張支線が廃線となり、ラストランには市外から多くの人が来たと楽しそうに話してくれた。

筆者と一緒に夕張を訪れた友人が「福岡から来たんです」と言うと、店主と常連の1人は、「嬉しいね」「うん、ほんと嬉しいよ」と笑顔で返してくれた。

「低い行政サービス」と「高い市民負担」に耐えるのは容易ではない。それでも住み続ける。よそから見たら、財政破綻で魅力に欠ける街かもしれないが、そこに生きる人にとってはかけがえのない故郷である。どうにかして再生を果たしてほしいと思わずにいられない。

2019年に廃線となったJR石勝線夕張支線(筆者撮影)

参考記事:

読売新聞オンライン 2021年5月26日「京都市 財政破綻の危機、28年度にも再生団体…1600億円の収支改善案」

朝日新聞デジタル 2018年4月4日「傾く電柱・学校閉鎖で人口激減 夕張、疲弊と我慢の日々」

 

参考文献:

NHKスペシャル取材班『縮小ニッポンの衝撃』(講談社現代新書、2017)

加藤 智子「地方自治体の財政再建-夕張市の再生への取り組み-」立法と調査 375 号(2016)