酒屋のいま! コロナ受け変化は?

「日本酒の聖地」。酒好きの間でこう呼ばれる酒屋が東京都多摩市にあります。京王線聖蹟桜ヶ丘駅から歩いて15分ほど、大正3年創業の「小山商店」を訪ねました。

 

小山商店(筆者撮影)

 

きっかけは、筆者のような若い世代に馴染みの薄い、街の酒屋さんがどんなものなのか気になったこと。そして、7月の「酒類販売事業者への取引停止依頼」などコロナ禍でのお酒をめぐる政府の対応について意見を聞きたかったからです。

社長の小山喜明さんにお話を伺いました。

まず、驚いたのはお酒の種類。日本酒、焼酎からワインまで。その数は2千種類以上あると言います。中でも約800種類以上ある日本酒の7割は蔵元から直接仕入れているそうです。「酒蔵の方と直接顔を合わせて商売をしたい」。小山社長はそう語ります。

店内には全国の蔵元から仕入れた酒がズラリ(筆者撮影)

美味しいと思ったお酒があったら、まずは蔵元に足を運ぶそうです。製造量に限りがある銘柄もあり、取り扱いたいからといっても、すぐに取引してもらえるわけではないとのこと。何度も足を運び、蔵元との信頼関係を築いてようやく仕入れることができると言います。

今はコンビニなど、どこでもお酒が買える時代。酒屋は厳しいと言われている中、豊富な商品に惹かれ、小山商店にはたくさんのお客さんがやってきます。地酒に力を入れ始めたのは40年ほど前、小山社長の父の代から。スーパーにも並んでいるような酒を、同じように売っていてはいけないとの考えからだそうです。

お店には大人だけでなく、駄菓子を買いに来る子供の姿も。話を聞くと、サザエさんに出てくる三河屋のサブちゃんのように配達もしています。地酒の専門店としてだけでなく、地域に根ざした酒屋さんとしての歴史を感じました。

 

お酒の種類に合わせて温度の異なる冷蔵庫で保存。これだけ設備が充実しているのも小山商店ならではとのこと。(筆者撮影)

 

コロナの影響については、6割が飲食店への販売であったためその分の売り上げは落ちたと言います。一方で、家飲みが増えたこともあり店頭での売れ行きは上向いたそう。やはり、大変なのは飲食店向けに特化した業務用専門店。コロナ不況を受け、そういったお店同士の合併が増えているそうです。

販売店向けの補助金や協力金については、売り上げが前年同月の半分以下になると数十万円支給されるものの、本来の売り上げとの差が大きく、もらっても仕方がない部分があるとのことでした。7月に酒の提供自粛に応じない飲食店との取引停止を依頼する動きがあったことについては、「全く現場を見ておらず、呆れてしまった」。実際に、飲食店から「卸してもらえますか?」と不安そうな電話が入ったと言います。

今まで取引をしてきた大切な相手を裏切ってはいけないと、たとえ政府が撤回しなくてもこれまでと変わらず商品を提供するつもりだったそうです。お酒だけではなく、どんな商売も信頼関係は非常に重要です。酒規制のやり方について、政府にはもっと現場の声に耳を傾けてから判断していってほしいと改めて感じました。

取材の後、酒好きの父に送るお酒を選んでもらいました。コンビニやスーパーと違い、わからないことを質問しながら買い物ができるのが酒屋のいいところ。筆者と同じ大学生のお客さんも多いそうです。「若い人には美味しいお酒を飲んでもらいたい」。小山社長は話してくれました。成人したばかりで、まだまだお酒初心者の自分にとって、奥深い世界へといざなってくれるとても魅力的な場所です。

「この前、居酒屋で飲んだお酒が美味しかったから、買いに行ってみようかな」。そんなことが当たり前にできる世の中に早く戻ることを願います。

 

 

参考記事:

2021年7月14日付 朝日新聞デジタル「酒対策、政府またもや撤回 自民は選挙支援への影響懸念」

https://www.asahi.com/articles/ASP7F6WB8P7FUTFK00V.html?iref=pc_ss_date_article