高校2年の秋にアマチュア無線の免許を取った。高校のゴミ捨て場に捨ててある無線機が気になったのがきっかけだ。昭和の世代に流行ったアマチュア無線。スマホがなかったころ、小型の無線機で見知らぬ人と話したり、空気が澄んだ夜に海外局と交信したりするのが醍醐味だったらしい。映画「崖の上のポニョ」で宗介の母「リサ」が、船乗りの夫と交信するときにも登場していた。
「今時そんなのやってる人はいないよ」とよく耳にするが、かくいう筆者もアマチュア無線の面白さが分かっていない。見知らぬ人と無線機で交信するより、気心知れた友人と電話するほうが楽しいと思うからだ。
とはいえ、アマチュア無線を楽しむ人は多く、日本アマチュア無線連盟の会員数は6万人以上だ。交信した局と交信証を交換したり、通信技術を競うコンテストに参加したり、様々な楽しみ方がある。
今日、久しぶりに秋葉原の電気街で買ってきた無線機の電源を入れた。周波数を145.00MHzに合わせる。これは呼び出し周波数といって、交信したい局を探すときに使う。アンテナを立てて、しばらく公園を歩いていると陽気に話すおじさんの声を受信した。彼は、個別に与えられたコールサインを読み上げた後、「お聞きの方はいらっしゃいますか」と呼びかけた。すると誰かが応答して、しばらく筆者はその会話を聞いていた。
10日付の日経新聞夕刊では、日本アマチュア無線連盟の会員数が27年ぶりに増加したことが報じられていた。「コロナ疲れ」を癒すためにアナログ手段が見直されているという。無線の他に文通も好まれ、文通相手を募集し、郵便でのやりとりを取り持つ「文通村」も会員数が増えたとのことだ。
自分のために書かれた手紙を読むのはどんな気持ちなのだろう。受け取った感覚も想像できないほど、最近はメールやSNSでしか連絡をとっていないことに気付かされた。
筆者はコロナを機に、スマホを肌身離さず持つようになった。大学からのメールは増え、オンライン授業の連絡を見逃すわけにはいかない。SNSを使う時間も増えて、友人には「ラインの既読がすごく早いね」と言われたこともあった。暇さえあればツイッターやインスタグラムを見て、知人が何をしているのか知ろうとする。もう「スマホ脳」なのかもしれない。
色々と考えているうちに、さっきまで無線機から聞こえていたおじさんの声は消えている。無線機の電源を切り、ポケットから無意識にスマホを取り出してしまった。通知は何も来ていない。我に返り、次は見ないと心に決めて電源を切った。
参考記事:
10日付 日本経済新聞夕刊(埼玉3版)1面「無線・文通…アナログ復権」
参考資料:
アイコム株式会社 アマチュア無線が登場する映画ベスト6