疑問!外来種問題はどの立場から取り組むべき?

この紙面を見て不思議な感覚を覚えた方はいますか?

筆者撮影

筆者は7日付朝日新聞の「真逆の話題」に非常に強い興味を覚えました。

「アメリカザリガニ 身近な厄介者 水草切断し生態系被害 駆除も困難」

「ライチョウのヒナ すくすく 中央アルプス 50年ぶり自然繁殖」

一方は、環境省がアメリカザリガニを特定外来生物に指定する方向に方針を固めたことをもとに「厄介者」と存在自体を否定的にとらえる記事。もう一方は、中央アルプスでは絶滅したとされてきた国の特別天然記念物ライチョウの「復活作戦」で、約50年ぶりに自然繁殖によるヒナが孵化したことを喜ぶ記事。こちらはアメリカザリガニへの皮肉に見えて仕方ありません。

さて、なぜここまでアメリカザリガニは嫌がられるのでしょうか。

アメリカザリガニは1927年にウシガエルのエサ用にアメリカから国内に持ち込まれ、各地の河川や水田を中心に生息地を拡大させました。筆者は子供のころ、ザリガニを捕まえた思い出があり、そこで出会ったほとんどはアメリカザリガニだったと思います。現在はすべての都道府県に分布しており、強い繁殖力で知られます。最も懸念されているのは生態系への被害。雑食で様々な動植物を食べるだけでなく、他の水生生物の住処である水草をはさみで刈り取るなど、他の生物に大きな影響を及ぼしています。駆除したくとも、広範囲に定着していることや、泥にもぐったり水中で移動したりと存在を確認しづらいため、なかなか成果が見られません。

確かに、もともとの生態系が、外部からきた種によって壊されることは許されることではないかもしれません。しかし、駆除の基準を人間が決めてよいのか疑問が残ります。

すでに特定外来生物に指定されているアライグマやヌートリアは農作物を荒らすことで有名です。ここで注目したいのは、これらの動物はアメリカザリガニと同じく、人間の目的(以下の写真参照)で国内に持ち込まれ、人間の都合で捨てられたため、各地に定着したということです。しかし、人間に害を与えるようになった瞬間、排除しようと努めることにどうしても疑問を抱かずにはいられません。あまりにも身勝手ではないでしょうか。

環境省ホームページより

他にも外来種による負の影響として、交雑種の増加があげられます。外来種と在来種が交尾をすること(遺伝的攪乱)により生まれる種のことで、これにより、純系の在来種が減少します。生物多様性が損なわれることで、種として持っている遺伝子の種類が減少する結果をもたらします。環境変化に適応できず、種の絶滅を招く危険性が高まるのです。人間にとってはそれまでの生態系から享受していたものを失うことになりかねません。

外来生物法の目的は、「特定外来生物による生態系、人の生命・身体、農林水産業への被害を防止し、生物の多様性の確保、人の生命・身体の保護、農林水産業の健全な発展に寄与することを通じて、国民生活の安定向上に資すること」。これもまた人間中心ではないか。

在来種の保護のための駆除には一理ありますし、必ずしも悪いことではありません。それにより農家は助かり、生計を立てることができるでしょう。しかし、今生きている生き物たちに少しでも思いを馳せたことはあるのでしょうか。

基本的には、ガラパゴスはガラパゴスに棲息する生き物たちのものだから、彼らがどうしたいかによる。生き物たちには自己決定権があるからね。

人間たちが入り込んでくると、あっという間に、森が荒らされたり、また、大陸の家畜や犬など、本来、ガラパゴスにいなかった動物たちが持ち込まれたりするだろう。

そうなるとガラパゴスの生き物たちのバランスが崩れる。それから人間たちは自分たちが利用できるものはいくらでも利用するようになる。

朝日新聞に連載されている「ドリトル先生 ガラパゴスを救う」という物語の一節です。生き物に自己決定権があること、そして人間が自然を利用していることが示されています。外来種も含めて現在の生態系が成り立っていると考えると、そこに人間が意図的に踏み込むべきではないかもしれません。「農業への悪影響がみられる」、「元来の生態系を壊す可能性がある」、そういった表面上の理由だけでなく、問題の根源や重視すべき観点に気づくきっかけがドリトル先生の物語には隠れています。

現在、「外来種を駆除して生態系を守ろう」といった声をよく聞きます。しかし、その目的は本当に「生態系の保全」なのでしょうか。ドリトル先生の物語を読むと、筆者には、「人間の利益を追求する」ことが本来の目的に見えてなりません。大好きなクワガタの種を保全するために、世界中を飛び回り、生態研究をする教授や、自然教室を開講し、子どもに自然や生き物の魅力を発信することに力を注ぐ人に出会ってきました。なおさらそういった人の陰に隠れて自らの利益を追求する人がいることに違和感を覚えます。

 

(記事の一部を修正しました)

 

<参考記事>

7日付 朝日新聞朝刊 福岡14版 1面「アメリカザリガニ 特定外来生物」

7日付 朝日新聞朝刊 福岡13版 23面「福岡伸一の新・ドリトル先生物語 ドリトル先生 ガラパゴスを救う 76」

7日付 朝日新聞朝刊 福岡14版 27面「アメリカザリガニ 身近な厄介者」

7日付 朝日新聞朝刊 福岡14版 27面「ライチョウのヒナ すくすく」

8日付 朝日新聞朝刊 福岡13版 23面「福岡伸一の新・ドリトル先生物語 ドリトル先生 ガラパゴスを救う 77」

 

<参考資料>

環境省ホームページ 日本の外来生物対策

THE SANKEI NEWS 「外来種のアメリカザリガニ、日本で繁殖した驚きの習性とは」(2018年2月17日)