河井夫妻事件、受領100人不起訴 説得力ある説明を

公職選挙法 第一章 第一条

この法律は、日本国憲法の精神に則り、衆議院議員、参議院議員並びに地方公共団体の議会の議員及び長を公選する選挙制度を確立し、その選挙が選挙人の自由に表明せる意思によつて且つ適正に行われることを確保し、もつて民主政治の健全な発達を期することを目的とする。

公職選挙法違反として、河井克行元法相に懲役3年の実刑判決が下されました。2019年の参院選広島選挙区を巡る大規模な買収事件です。民主主義の根幹を揺るがす、法相経験者にあるまじき振る舞いに大きな衝撃を受けました。そして、はたまたこの事件に関して、有権者に疑問符を抱かせたのが東京地検。受領側の地元政治家ら100人全員を「事件の特殊性」などを理由として不起訴処分としました。

公職選挙法221条では、その1号で、当選を得るために選挙人などに金銭を与える側の行為を「三年以下の懲役若しくは禁錮又は50万円以下の罰金に処する」と定め、5号では、それらを受け取った側も同様に処罰するとしています。冒頭で引用したように、これらは「民主政治の健全な発達を期すること」を目的の一つとして定められたものです。

「大規模な選挙買収の刑事責任を負うべきは河井克行氏であり、案里氏だ」「一部を起訴、一部を不起訴と一定の基準で選別するのが困難だった」などと説明した東京地検の山元裕史次席検事ですが、各紙から批判の声が上がっています。

確かに、これら一連の大規模な買収事件の主犯が河井夫妻であることに間違いはないでしょう。強い影響力を持っていた彼らの立場からしても、より厳しく処罰されることが求められます。しかし公選法で、与える側だけでなく受け取る側にも同じように処罰をすると規定しているのは、権力者だけでなく、彼らを監視する市民にも、民主政治を守り発達させる責務があるからなのではないでしょうか。

彼らがお金を渡された時点でそれを拒み、告発していれば、19年7月から20年6月までの間、案里氏が参議院議員というポストに就くことはなかったかもしれません。正当な手続きを経て選ばれた、真の代表がその席に座り参議院の一翼を担っていたはずです。

「一定の基準で選別するのが困難だった」との説明も納得がいきません。過去に多くあった、買収された人々の取り扱いとの均衡がとれておらず、公平な処分に思えません。一人一人の行為の態様と法律とを照らし合わせて丁寧に検討し、処罰を決定しなければならないと思います。

 

筆者は法学部で学んでいますが、「法律学は『説得の学問』だ」という言葉を耳にすることがあります。人を裁き処罰を決定するのにも、対立が起きた時にどちらが正しいのかを裁断するのにも、法律を解釈して当てはめるだけでなく、当事者たちが納得するような説明をしなければなりません。そこには、法律などの具体的な根拠や一貫性が必要不可欠です。だからこそ法学部の論文式のテストでも、司法試験でも、その力が問われています。

検察官として働く方々は、学生時代の研鑽と実務経験の積み上げのなかで極めた「説得の学問」をもとに、たくさんの事件と闘い、人の処罰を決定してきたはずです。有権者が納得する説得力のある説明を求めます。

 

 

参考記事:

7日付 朝日新聞朝刊(愛知14版)1面「現金受領100人全員不起訴」関連記事28面

7日付 読売新聞朝刊(愛知13版)1面「河井元法相側買収 受領100人不起訴」関連記事3、28面

7日付 日本経済新聞朝刊(愛知12版)39面「異例判断、公平さに疑問符」

8日付 朝日新聞朝刊(愛知14版)1面「天声人語」、10面「社説 受領者不問とはいかぬ」

8日付 読売新聞朝刊(愛知13版)3面(総合)「社説 検察の判断は理解に苦しむ」