酒蔵のいま! コロナ禍の影響と酒造りへの思い

《老舗酒蔵 石川酒造へ》

東京・多摩地域の西部に位置する福生市。この地で江戸時代から150年以上酒造りを営むのが「石川酒造」です。最寄り駅であるJ R青梅線・拝島駅から歩いて20分ほど。歴史を感じさせる建物が見えて来ます。

石川酒造(7月2日 筆者撮影)

酒蔵に興味を持ったのは、6月18日付朝日新聞の「酒蔵来てもお酒が飲めない…『悪者扱い残念』苦境の蔵元」という記事がきっかけです。新型コロナウイルスの拡大を受けて、都内の酒蔵にも影響が及んでいると報じられています。緊急事態宣言が終わった今でも感染防止のため、酒類の提供が制限されています。時短営業や休業を要請されている飲食店ばかりに目が行きがちですが、そもそもお酒を作っている酒蔵について知りたいと思い、訪問しました。

「酒蔵へ行ってお酒が飲めないのは、山や海へ行って、山菜料理や海の幸が食べられないのと同じ。宣言の影響は大きい」

記事でこう語っていた、石川彌八郎社長に話を伺いました。

《目指すのは「酒飲みのテーマパーク」!》

まずは「石川酒造」について。驚いたのは、「酒飲みのテーマパーク」を目指しているという言葉でした。日本酒を作っている酒蔵は、長い歴史を誇り、伝統を重んじるようなイメージを勝手に持っていたからです。広い敷地内にあるレストランや直売店。酒蔵を見学し、美味しいお酒とご飯を楽しみ、お土産にもお酒を買って帰る。そのような構想のきっかけを尋ねました。

日本酒の出荷・消費のピークは1973年。そこから減少していき、現在はその時期と比べて4分の1程度だそう。以前の石川酒造は銘酒「多満自慢」を醸造して瓶詰めをするまで。そこから酒屋さんなどへ出荷するスタイルでしたが、日本酒を取り巻く流れを受けて「売り方を変えなければ」と考えたと言います。

1994年の酒税法の改正もきっかけの一つだったそうです。ビールの製造免許に必要な最低製造量が引き下げられたことにより、大手メーカーしか許されなかったビール製造が可能になりました。それを受けて地ビールに取り組み、売り上げは日本酒に追いつく勢いだったそうです。石川酒造では、明治時代にビールの醸造を行っていた歴史があり、「いつか復活させたい」という石川社長の思いもあったと言います。地ビール解禁当時に始めたスタイルがレストランや売店などを訪れた客に買っていってもらうというもの。これが「酒飲みのテーマパーク」の原点になったそうです。今後はワインやスピリッツなど、さらに色々なお酒を楽しんでもらえるようにしたい、とも。時代の流れに柔軟に対応していく老舗の力強さを感じました。

《コロナ禍の影響は?》

続いてコロナ禍の影響について。都内の酒蔵の多くが飲食店に出荷する割合が多く、時短や休業の影響を受けやすいといいます。ただ、石川酒造ではお客に来てもらうというスタイルもあって、他の都内の酒蔵より影響は小さかったと言います。緊急事態宣言中はレストランでの酒類の提供を取りやめましたが、逆に敷地内の直売店の売り上げは伸びたそうです。

一方で、酒蔵見学は現在も中止になっています。コロナ前は外国人観光客が年間約二千人も訪れており、英語ガイドも雇ったそうです。「酒蔵見学は、多くの人に来てもらうきっかけ」であり、その点で影響は大きいと言います。

筆者は、コロナ禍でお酒が悪いような雰囲気が漂ってしまっているのに疑問を感じていました。石川社長は「作り手として、反論もしたいが反省もしなければ」と語ります。飲酒を文化であるとすれば、権力がその文化を禁止するのはおかしいが、必ずしも全員が文化的飲酒をしているわけではない現状もある、と。業界として、コロナ禍で「日本人の文化的飲酒のレベルを上げるという課題を投げかけられたのでは」と話してくれました。

石川彌八郎社長。両手には、銘酒「多満自慢」とクラフトビール「TOKYO BLUES」。

《石川社長が考えるお酒への思い》

「華やかな食卓を、陰で支える酒造り」。これは石川酒造の醸造の精神だそうです。プロのハーモニカ奏者でもある石川社長は、この言葉を音楽に例えて説明してくれました。ボーカリストはお客をのせるのが仕事。そのボーカルをのせるのがバンド。メリハリと構成が重要で、お酒の役割もバンドと同じ。ボーカルである、お祝いの席や食卓などの様々なシーン。それを一層引き立たせ、楽しんでもらうためのものであると言います。

この話を聞いて、本当にその通りだと感じました。お酒は感染を広げる悪者ではありません。美味しい食事に楽しい会話、そこに彩りを加えてくれるものです。華やかな食卓で気兼ね無く、作り手のこだわりが詰まったお酒とともに、楽しい時間を過ごせる日が来ることを願うばかりです。

取材の帰りに直売店で、父へのお土産に「多満自慢」の飲み比べセットを購入しました。筆者の他にも日本酒やビールを買いに来る人がちらほら。酒蔵見学も再開した際には、ぜひ行ってみたいと思いました。皆さんもコロナが落ち着いた頃に、「酒飲みのテーマパーク」に足を運んでみてはいかがでしょうか。

 

 

 

 

参考記事:

6月18日付朝日新聞デジタル 「酒蔵来てもお酒が飲めない…『悪者扱い残念』苦境の蔵元」

https://digital.asahi.com/articles/ASP6K75QLP6GUTIL05M.html?iref=pc_ss_date_article