欧州報告

筆者の通うロンドンの語学学校には、さまざまな国の生徒が通っています。サウジアラビア、イタリア、スペイン、アンゴラ、スイス、中国、韓国などなど。すぐに打ち解けるのは容易なことではありません。文化も歴史も異なるので、お互いが共有できる会話のネタを探すところから始まります。そんな中、筆者の経験上ほとんどの人と共通して盛り上がることのできる話題を一つ紹介します。それは「サッカー」です。実際にやったことがない人でも、見るのが好きという人は日本でも多いのではないでしょうか。海外ではその傾向が特に色濃く表れているように感じます。

 

サッカーの話は万国共通。皆、国に誇りを持って応援しています。特にこの時期、英国ではどこへ行ってもサッカー欧州選手権(EURO)の話で持ちきりです。29日の試合でイングランドがドイツを2対0で破り、準々決勝へと駒を勧めました。筆者はスポーツには疎いのですが、あまりにも皆が熱狂しているため、周りと一緒になって観戦していました。

 

ところが、テレビに映る光景を見て思わず絶句しました。観客席のほとんどがマスクなし。小さな子供から大人まで大声を出して応援し、中には負けたチームの応援で泣き叫んでいる人もいました。小池都知事が見たら卒倒してしまうのではないかというほどの密状態。観客には、歌手のエドシーランや元サッカー選手のベッカムといった有名人の姿も見えましたが、やはりマスクなし。日本なら叩かれるような状況が平然と起こっていたのです。コロナに対する意識が日本と欧州で異なることを実感しました。本当に大丈夫なのだろうか?あのテレビを見た誰もが感じたことでしょう。

 

そして翌30日、案の定「観戦で1991人感染」といった記事が出ました。スタジアムでの観戦を定員の4分の1ほどの約2万人に抑えていたにもかかわらずです。観戦場所は、実はスタジアムだけではなかったのです。各地のパブや路上などに大勢のファンが密集し、深夜まで盛り上がっていました。

 

■東京オリンピック 無観客は得策か

この一件を対岸の火事と思わずに、是非とも東京五輪を考えるときの教訓にしたいものです。東京五輪の観客について無観客試合にするという案も浮上しています。代表者会議は、IOCのトーマス・バッハ会長が来日予定の8日か翌9日に開かれる予定で、観客の扱い方について協議します。しかし、たとえスタジアムを無観客にしたとしても、英国のようにパブや居酒屋などに大勢が集まって観戦することは、もはや止めようがないのではないかと思われます。それほど、スポーツに熱狂する人々の気持ちは熱いのです。

 

国旗を振り、チームのTシャツを着て、自国の選手が勝った時にはお祭りのようにどんちゃん騒ぎ。それがオリンピックの醍醐味だと考えている人も多いことでしょう。無観客試合では意味がないという人さえいるほどです。飲食店に対して何かしらの対策を打たない限り、感染者の増加が抑えられるとは思いません。

 

文化も言語も違う世界中の人々が1つのスポーツを通して、喜びや悔しさを共有し合う。オリンピックはいまや単なる選手間の個人的な対戦に留まらず、それを応援する観客の意識や、場合によっては国際関係にも大きな影響を与える世界的な大行事となっています。たかがスポーツと侮ってはいけません。オリンピックの存在の大きさを改めて感じるとともに、だからこそ一時の判断の誤りが大きな事態に発展しかねないと思いました。さて、欧州選手権を生かして東京オリンピックはどう動くでしょうか。今後の動向が気になります。

参考記事:

1日付 朝日新聞デジタル「サッカー応援の1300人感染 欧州選手権でパブ密集」

1日付 読売新聞オンライン「スタジアムや広場・パブで…サッカー欧州選手権の観戦で1991人感染

2日付 朝日新聞デジタル「都知事「五輪は無観客も軸」観客の有無、8日にも判断」