旅行会社のオンラインツアー 商機はあるか

コロナ禍は、様々な業界に致命的なダメージを与えています。飲食、演劇、音楽、スポーツ、観光…。沈み込んだ業界は数え切れませんが、コロナ前後で最も落差が大きかったのは旅行・航空業界でしょう。これまで、外国人観光客は年々増加していました。政府の予測を遥かにしのぐ右肩上がり。2012年は836万人。15年は1974万人。18年は3119万人。20年以降も更なる上昇が期待されていました。

訪日外国人旅行者がほぼゼロにまで落ち込むなんて、誰も想定していなかったでしょう。当然、海外に出かけるアウトバウンドの需要も皆無に。国内こそ需要が若干あるものの、家族や個人による近場の旅行が主で、旅行会社が利益を見込めるはずの修学旅行やバスツアーの類はほぼ完全に消失しました。現状はあまりにも絶望的です。

ただ、旅行会社は疫病退散を祈るだけでなく、何とか雇用を維持しようと、涙ぐましい努力を重ねています。その一つがオンラインツアー事業です。先月、筆者はJTB提供の「クイズで巡るフランクフルト旧市街」を体験してみました。

現地在住の日本人の観光ガイドが、フランクフルトの街を歩きながら、建物や広場、歴史、食べ物などを紹介します。参加者は、Zoomウェビナーを通じて景色を眺めるだけでなく、観光ガイドが出すクイズにも随時挑戦。レリーフに彫られた人物は誰でしょう、名物の食べ物は何でしょう、といった4択クイズ10問ほどに答えました。

観光ガイドの方は、非常に手慣れた様子。様々な建物やお店をテキパキと効率良く回り、淀みなく丁寧に説明してくれました。コロナの感染状況等について視聴者から質問が飛んだ際も、すぐに的確な回答を返していました。僅か45分のZoom中継でしたが、現地の歴史や文化をぎゅっと凝縮して学べた気がします。

しかし、正直なところ、このオンラインツアーが商機になるか、コロナ後も定着するかと問われれば、否だと感じました。「没入感」の欠如は致命的です。画質は100dpiを下回るくらいで、テレビやYouTubeよりかなり粗く感じました。屋内の中継では映像が止まってしまうことも。映画館のような特大スクリーンかVRゴーグルならば改善の余地があるかもしれませんが、家庭用PCのスクリーンだと、その地にいるような感覚を味わうことは叶いませんでした。

利用者が価格に見合う価値を見出せるかどうかも疑問です。筆者は、モニター参加ゆえ無料で体験させてもらえたものの、10名以下のグループで申し込んだ場合、グループの参加費は150ユーロ(約1.9万円)。テレビやYouTubeであれば、より良い画質の映像を無料で見られるのに、ガイドの説明とクイズが付いただけで、2千円以上払うのはなんだかなぁ…という気がします。

苦境の中、何とかビジネスの機会を見出そうとするJTBの姿勢は十分評価に値します。単に景色を見せるだけでなく、地域の文化や自然を魅力的なコンテンツへと昇華させ、双方向的な体験を提供する。その方向性自体は絶対に正しい。人々の指向は、商品の所有に価値を見出す「モノ消費」から、サービスを受けて得られる体験に価値を見出す「コト消費」へと移行していますから。

ただ、現在の付加価値やクオリティー程度では、値段相応の感動や発見、満足感を与えるのが厳しいのではないか、という残念な結論に至りました。

コロナの収束はなかなか見通せませんが、旅行会社の更なる取り組みに注視したいと思います。頑張れJTB!

イメージ画像(JTB・MyBusより)