土地規制法案、懸念するのは市民運動の萎縮

筆者が所属するフィールドホッケー部はコロナ禍の前、週に2回ほど埼玉県飯能市のホッケー場を利用していました。練習時間は19時から21時。練習が終盤に差し掛かる20時半過ぎ、緑と赤色のライトを点灯させた機体が「ゴゴー」「ヒュー」と大きな音を立てて上空を飛んでいきます。正体は、横田基地(福生市)に配備されているCV22オスプレイ。訓練を終えた機体が市上空を通り、基地に帰っていくのです。地面が揺れるほどではないものの、重低音には耳を塞ぎたくなるほど。プレイヤーに残りの練習時間を告げるマネジャーの声も、いつもより力が入ります。

飛行経路下でこれほどなら、離着陸する基地周辺の騒音はいかほどか。横田基地での軍事訓練に対し反対運動を続ける高齢男性に話を聞いたことがあります。青梅市に住む男性は、機体の音を「去ってからも体に残るほどの地鳴り」と表現していました。

「戦争を経験した身でも、あの音は怖い。いつまでも慣れないね」

問題視されているのは騒音だけではありません。エンジンを動かすときの排気ガスの匂い、機体からの落下物や低空飛行・・・。健康や命に直接係わる問題が周辺住民を悩ませているのです。

「沖縄だけでなく、横田の現状も知ってほしい。私たちが声を上げないと」という男性の言葉は印象的です。

そのような中、基地周辺の地域住民に大きく関わるだろう「土地規制法案」の成立に向け、大きな動きが出ています。この法案は、自衛隊や米軍基地、原発など安全保障の上で重要だとされる施設に隣接する土地利用を規制するものです。周辺を「特別注視区域」とし、その中で土地や建物を売買する際は名前や利用目的を事前申告しなければなりません。野党は法案の中身が曖昧であることを指摘。しかし衆議院本会議で可決され、4日参院で審議入りしました。

土地規制法案とは?(27日朝日新聞デジタルより)

野党が指摘するのは、処罰の対象が明確でない点です。重要とされる施設の機能を妨げる行為があれば、勧告に始まり懲役などの罰則にまで科せられるとされています。では「機能を阻害する行為」とは具体的に何を指すのか。27日の朝日新聞2面(上図)には、電波妨害などの不正行為とありますがそれ以上の具体例は盛り込まれていません。馬奈木厳太郎(まなぎ・いずたろう)弁護士は、この抽象的表現に基地反対を訴える市民運動が含まれる危険性を指摘します。具体的な定義付けがなされていないため、政府にとって都合のよい解釈がされないか。憲法で保障されている市民運動が、この法案によって萎縮しないか。懸念は残ります。

市民運動が封じられれば、私たちが基地周辺の声を耳にする機会は減るかもしれません。声を上げている人々の口を塞ぐようなことだけはあってはならない。法案を不明瞭なまま成立させてはいけません。与党は具体的な説明を。

参考記事:

6日付朝日新聞朝刊(東京13版s)14,15面意見広告

5日付朝日新聞朝刊(東京13版s)4面「土地規制法案突き進む与党」

5月27日付朝日新聞朝刊(東京14版)2面「いちからわかる!」関連記事3面

参考資料:

論座「欠陥だらけの土地規制法案―政府の裁量濫用で市民活動制限の恐れ

飯能市ホームページ「CVー22オスプレイの横田飛行場配備に関する情報について