スポーツ選手にとって会見は‘義務‘なのか

  • 学生は、必ず黒髪でなくてはならない。
  • 野球部の生徒は、全員坊主頭でなくてはならない。

「〇〇は、△△しなくてはならない」という昔なら当たり前とされてきた風潮が、最近になって見直されてきています。上に挙げたような、学生は△△しなければならないという規則は、「ブラック校則」と名付けられることによってその問題性がようやく浮き彫りになりました。

今までは、学校が言うのだから仕方ないと受け入れてきましたが、地毛が茶髪や金髪の人、天然パーマの人など元々の髪質でさえ皆ばらばらのはずです。学生の髪色や髪型の指定は当たり前とされたかつての常識が少しずつ変わってきているのです。

「スポーツ選手は必ず会見をしなくてはならない」

スポーツ界では「会見をしなくてはならない」という常識が大きな波紋を呼んでいます。女子テニスの大坂なおみ選手が全仏オープンでの記者会見を拒否し、罰金処分を受け、大会を棄権したのです。グランドスラム・ルールブックには、「選手およびチームは、けがや身体的な理由ではない限り、勝敗に関係なく、可能ならば試合後30分以内に会見を行わなければならない」と記されています。会見が選手の義務であるということの是非について考えたいと思います。

■アスリートの位置づけ

スポーツ選手とは、本来ただ純粋にスポーツで結果を残すために励む人たちであるはずです。ところが、いまや競技以外の人柄や性格の部分を前面に出すことでアイドルのような存在になりつつあります。試合そのものに関係のない発言で注目を浴びたり、場合によっては熱愛やスキャンダルを報じられたり。まさに芸能人のような位置づけになっています。したがって、会見はファンサービスの一環としての意味合いを強く持ち、そこでの選手の発言ひとつひとつがより一層注目されています。

またSNSの登場により、有名な人に限らずとも、一個人の発言の影響力が以前にも増して大きくなりました。誰でも気軽に発言ができるようになったことで、選手の会見に対する反響の声も大きく、本人の耳に届くようになったのです。まだ23歳の大坂選手にとって、自分の一言が全世界へと発信される会見インタビューに臨むことは、相当なプレッシャーがあってもおかしくはありません。テニス選手は政治家でも女優でもありません。人前に立って話すことが本業ではないのです。

 もし筆者が何かに失敗して落ち込んでいるときに、「今の心境をお聞かせください」「敗因は何だと思いますか」と詰め寄られたら、「少し放っといてよ!」と言いたくなってしまうかもしれません。しかし、会見の場でそんな不機嫌な態度を取ろうものなら、たちまち全世界からバッシングされてしまいます。精神的な事情による会見の拒否は、充分正当な理由になり得るのではないでしょうか。

大坂選手の会見拒否はルール違反であることに変わりはありません。もちろん、これはあくまでも私人間の契約であり、どちらかに不都合があればそのルールに則って、拒否をしても構いません。ただ、逆にいえば主催者側にも選手を選ぶ権利はあるということなので、出場停止になってしまう可能性もあります。このような規定を設けることは主催者側の自由なので、私たちがとやかく言えることではありません。しかし、だからこそ素直にテニスだけを楽しめる大会がこれからもっと増えれば、選手たちは今まで以上に試合に打ち込みやすくなるのではないかと思います。

大坂選手はツイッターに「anger is a lack of understanding. change makes people uncomfortable. (怒りは理解の欠如である。変化は人々を不快にさせる)」と投稿していました。今まで当たり前とされてきた常識に異を唱える人が現れたとき、混乱や批判が起こるのは当然のことです。しかし、人々の考え方は時代と共に変わります。そのことを念頭に置いて、常に常識を疑ってみることが大切なのではないでしょうか。

(twitterより引用)

 

参考記事

6日付 朝日新聞デジタル「大坂なおみ棄権、海外で一斉報道 発信力の大きさ指摘も」

5月27日 日刊スポーツ「【解説】大坂なおみが‘選手の義務‘会見拒否宣言 罰金は最大220万円」