LGBT法案 優先すべきは前進だ

LGBTなど性的少数者をめぐる「理解増進」法案について、自民党の最終決定機関である総務会での了承が見送りとなり、今国会での成立が困難になりました。なかなか前へ進まない法案。自民党は、「LGBTに関するわが党の政策について」として、ホームページに次のような見解を載せています。

▲政策パンフレット「性的指向・性同一性(性自認)の多様性って?~自民党の考え方~」より。

▲自由民主党「性的指向・性自認の多様なあり方を受容する社会を目指すためのわが党の基本的な考え方」より。黄色のマーカーは筆者加工。

目指す方向性
まず目指すべきは、カムアウトできる社会ではなくカムアウトする必要のない、互いに自然に受け入れられる社会の実現を図ることであり、性的指向・性自認の多様なあり方をお互いに受け止め合う社会

「互いに自然に受け入れられる」「多様なあり方をお互いに受け止め合う」とはすなわち、誰の人権も等しく尊重されるべきであることを示しているはずです。しかし、パンフレットには、以下の内容も併記してあります。

憲法24条の「婚姻は、両性の合意のみに基づいて成立」が基本であることは不変であり、同性婚容認は相容れません。

憲法24条が作られた当初の趣旨は、家長である者の許しがなければ結婚できなかった戦前の婚姻制度を否定し、当事者の「二人で」決めて良いのだ、としたものです。したがって、必ずしも「男女」でなければいけないと定めたわけではない、と考える憲法学者も増えつつあります。自民党の解釈では、「目指す方向性」で理想の世界を掲げているわりに、憲法をかなり硬直的に考えているという印象を受けます。

また、各紙は、今回のLGBT法案反対派の意見で「差別の定義がはっきりしない」「差別だと訴える訴訟が頻発する」という「懸念」があると伝えていました。私には、これが真っ当な「懸念」であるようには思えません。

法律は、正しいことは何かという一定の規準を定めたものであるはずです。弱い立場の者、理不尽に傷つけられる者を守るために存在しています。新たな法律は、差別などの抑制力にとどまらず、それに基づいて訴訟が起こり、司法で議論されることにも存在意義があるはずです。差別の定義を細かく詰めるために成立を見送るよりも、まずは問題に苦しむ当事者を救うために、一歩前進することの方が優先されるべきだったのではないでしょうか。

いまある法律のどこを見ても性的指向と性自認の言葉は出てこない。この事実はそのまま、日本の法制度が性的少数者の存在を無視してきたことを意味する(29日付朝日新聞朝刊)

当事者の声は届いているのでしょうか。自民党議員は、彼らの姿を本当に見ようとしているのでしょうか。古い価値観に縛られているせいで、守るべき人を守れない可能性があることを自覚してほしいと思います。

 

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29日付 日本経済新聞朝刊(愛知13版)4面(総合3)「LGBT法案『成立不可能』」
29日付 読売新聞朝刊(愛知13版)2面(政治)「LGBT法案 今国会断念」

参考資料:

自民党 性的指向・性自認の多様なあり方を受容する社会を目指すためのわが党の基本的な考え方

自民党 政策パンフレット 性的指向・性同一性(性自認)多様性って?〜自民党の考え方〜