医薬品大国インド まさかワクチン不足するとは

感染爆発止まらぬインド。日本のメディアでも、医療用酸素の不足が大きく報じられました。酸素を売る店舗に群れる人。意識朦朧とする家族に酸素マスクを押し当てる人。火葬場で泣き叫ぶ人。医療崩壊した惨状を見ると、胸が痛みます。今朝の日経新聞によると、ワクチンも枯渇し始めているそうです。13億人超の人口を抱える途上国だから当然だと思われる方もいるかもしれません。しかし、酸素不足はともかく、ワクチン不足というニュースは事態の深刻さを一層際立たせます。インドは世界最大の製造国なのですから。

世界で年々拡大する医薬品市場において、インドの存在感は絶大です。医薬品の生産量は世界第3位(生産額では第14位)。ワクチンに至っては世界の需要の50%以上を占めます。背景には、1970年代のインディラ・ガンジー政権下で推進された保護主義政策があります。

上池あつ子氏の論文「『世界の薬局』インドのワクチン開発・分配戦略」によると、同首相は医薬品生産を自国産業化するため、特許法や価格規制令などを実施しました。物質特許を廃止し、製法特許のみを認可。必須医薬品の上限価格は世界最低水準に抑制。外資系企業の伸長を阻みつつ、自国の製造能力向上を促進しました。その結果、インド企業は低価格で大量製造する技術力を身に付けるようになりました。

80年代以降は、持ち前のコスト競争力を背景に、海外市場への輸出を展開。医薬品製造大国としての地位を確立すると一転、05年からは物質特許を導入して研究開発能力を強化しました。そして、ジェネリックに偏重した産業構造からの脱却に成功。現在では、多様な医薬品の開発から製造まで幅広く手がけるオールラウンダーとして、世界中の需要に応えています。

当然、新型コロナウイルスのワクチン生産でも、世界の工場としての役割を期待されていました。1月頃には、中国と競ってワクチン外交を展開。東南アジアなどの近隣諸国に対して無償提供を申し出るなど、輸出に積極的な姿勢を見せていました。余裕しゃくしゃくだった南アジアの大国が輸出を停止したどころか、自国内でも不足に陥るなど、数ヶ月前には予測し得なかった異常事態です。

デリー首都圏政府は18〜44歳を対象とする接種会場100ヶ所を既に閉鎖。大都市ムンバイを持つマハシュトラ州政府も、同年齢層への接種の先送りを決めたと、日経新聞は報じています。青年・壮年層が人口の大多数を占めるインドにおいて、接種の進捗状況はまだ道半ばであることが窺えます。

世界最大の医薬品・ワクチン製造国の状況が改善しない限り、アジア全体のコロナ禍の収束は望めません。幸いにも感染者数はピークアウトしたようですが、危機的な状況は続いています。インドの回復を祈ります。

 

参考資料:

17日付 日本経済新聞朝刊(大阪12版)4面「インド、ワクチン足りない」

上池あつ子「『世界の薬局』インドのワクチン開発・分配戦略」(雑誌「外交」21年4月号)

http://www.gaiko-web.jp/test/wp-content/uploads/2021/03/Vol66_p38-43_India_as_worlds_pharmacy.pdf

 

 

世界遺産に登録されているムンバイのCST駅(19年9月撮影)