臨時休業がもたらす悲劇

5月15日付の朝日新聞と読売新聞に目を引く広告を見つけました。

映画館では、感染対策を徹底しております。安心してお越しください。

赤く大きな文字で書かれたその広告には、吉永小百合さん主演の『いのちの停車場』が予定通り上映されることが記されています。ただの広告ではなく、映画関係者全ての思いを汲んだ広告に思えてなりません。

5月15日付 読売新聞と朝日新聞に掲載された新聞広告

今、緊急事態宣言に伴いあらゆる文化芸術活動が窮地に立たされています。

5月14日付の朝日新聞では文化庁の都倉俊一長官の悲痛な叫びが載っていました。

「文化芸術は人生の生きる糧。最大限のコロナ対策をして、細々とでも続けるべきだ。文化芸術をもし万が一、『不要不急』と考えていたら、行政や政治はできない」

都倉長官は、コロナ禍で穴が空いた心には文化芸術が必要とも訴えます。

「映画は家で見れるし、美術館や博物館はバーチャルで鑑賞ができる」という主張もあるかもしれません。しかし、それで心は満たされるでしょうか。「本物」に触れ、臨場感を得ることは決して我儘ではないと思います。何よりこういった公共施設で密になることはありません。一度の入場数を減らすなど感染対策は十分にしてきたはずです。

緊急事態宣言の発令5日前に訪れた博物館「アド・ミュージアム東京」1度の来場で6人までという人数制限を設けているためガラガラであった。(4月20日筆者撮影)

しわ寄せは働く側にも表れます。

池袋の大手映画館でアルバイトをしている友人は「休業手当が一切出ない。有給を消化してくださいって言われた」と落胆します。お金が稼げなくなった彼女は新たにアルバイトを始めました。

5月10日付の読売新聞の朝刊には「文化庁が国内3000人を対象にした2020年度の文化に関する世論調査」がグラフとともに載っています。

文化芸術を1年間に鑑賞した人の割合41.8%で、前年度より25.5ポイント減少した。

コロナによる深刻さが浮き彫りになっています。

 

美術館が好きな筆者は本日、家から1番近い埼玉県立近代美術館を訪ね、現場の声を聞いてきました。今は開館していますが、コロナの影響で過去に2度閉館をした経験のある美術館です。

「埼玉県立近代美術館」本日終了の「コレクション 4つの水紋」が素晴らしい。(本日16日筆者撮影)

「埼玉県立近代美術館」感染対策が徹底している。(本日16日筆者撮影)

「準備してきたものを来館者に見せる機会が失われるのはやるせない」。埼玉県立近代美術館に勤める学芸員のある女性が語ってくれました。企画展示をするのに長いもので2年〜3年を要すると言います。たとえ所蔵品展であったとしても、前の年からラインナップを決めているのです。作品の調査や出品交渉、一つの企画展示に多大な労力を要するそうです。

都内を中心に美術館が軒並み休館していることに対しては、「多くの美術館は予約制などを設け、密を避ける運営をしていると思う。現場の取り組みも虚しく、休館しているのは残念でならない」と肩を落とします。

 

私営の場合、入場収入が収益の大きな柱になっています。臨時休業が続くと莫大な損失を被ることになるでしょう。

「売上収益」「働く人の思い」「来館者の癒し」。文化施設の休業はそれら全てを脅かします。冒頭で述べた新聞広告にも記載されていますが、クラスターは未だ発生していません。文化芸術活動のあり方について、今一度見直す必要があるのではないでしょうか。

 

参考記事:

10日付 読売新聞朝刊 (埼玉13版)   31面 『市場規模5分の1に』

14日付 朝日新聞朝刊 (埼玉13版)   30面 『文化施設の休業 線引きに疑問』

参考資料:

15日付 朝日新聞朝刊 (埼玉13版)   28面 【全面広告】

15日付 朝日新聞朝刊 (埼玉12版)   26面 【全面広告】