「スマホ脳」になってない?

「スクリーンタイムって何時間くらい?」

講義前、隣にいた友人が尋ねてきた。スクリーンタイムとは、スマホの使用時間のこと。私はiPhoneの設定から調べると「1日の平均 4時間26分」とあったのでそれを伝えた。すると、友人は「少ない!」と驚き、「1日平均 12時間23分」と表示された画面を私に見せてきた。「1日の半分以上もスマホに費やしているなんて」と苦笑しながら。

 昨年11月の出版と同時に話題を呼び、40万部を突破したベストセラーがある。『スマホ脳』(新潮新書)だ。本書の著者はスウェーデンの精神科医アンデシュ・ハンセン氏。精神的不調を訴える患者増加の一因には「一気にデジタル化したライフスタイル」があるのでは、との疑問から執筆したという。

 本書にはスマホ、SNSが脳に与える恐るべき事実が列挙されている。その一つが、SNSは脳に刺激を与え、ドーパミンを放出させ、集中を阻害するというものだ。

 脳内の伝達物質ドーパミンが最も放出されるのは「何かが起こるかも」と期待している時だ。なぜなら、この物質の重要な役割こそ起こりそうな「何か」に人間を集中させることにあるからだ。

 この脳のシステムを巧みに利用したのがSNSだ。大事な連絡が入ってないか。「いいね」がついてないか。SNSは常に期待をもたせる。この何かが起こりそうという「期待感」がドーパミンを増加させ、私たちをスマホに誘惑する。なにかの作業中にLINEやインスタグラムの通知が入り、一気に集中が途切れたことはないだろうか。これはドーパミンが放出され、注意がスマホ一点に向くからなのだ。

本書には、大半のSNS系企業が行動科学や脳科学の専門家を雇い、脳が反応するような仕組みを研究している、と記されている。これが事実だとすれば、あな恐ろしや。以上のような「ゾッとする」事実が本書には数多く記されている。そのため、読後感はあまり良くない。しかし、スマホの使用制限をせねば、と読者に決意させるほどの訴求力はある。

 「スクリーンタイムに関する調査」(株式会社テスティー)によると、20代男女の1日あたりの平均利用時間は「5時間25分」だ。私たち20歳代がスマホにどれほどの時間を割いているのかがよくわかる。しかも、この調査は201811月のものだ。コロナ禍により「ステイホーム」が増えた今、若者のスクリーンタイムが激増しているのは火を見るよりも明らかだろう。冒頭の友人の「1日平均 12時間23分」という衝撃的な数値もコロナ禍では平均的な利用時間なのかもしれない。

 一度でもいい。ぜひ、自分のスクリーンタイムを見て欲しい。もし、予想外の数値なら、『スマホ脳』を読むことを勧める。良い「処方箋」になるに違いない。

 参考記事:

13日付 朝日新聞(14版)1面「緊急事態 解除見えず」

参考資料:

アンデシュ・ハンセン、久山葉子()『スマホ脳』、新潮新書、2020年11月

 株式会社テスティー「【スクショ解析】スクリーンタイムに関する調査」

https://lab.testee.co/screen-time