途上国のワクチン事情 〜インドネシアの事例〜

先月、東アフリカ・ルワンダのワクチン事情を取材しました。人口1.2千万の小国ながら、輸送・管理体制をしっかり整え、日本を上回る接種回数を実現。順調な進み具合に、とても驚かされました。次いで今月、新型コロナの予防接種を受けたと連絡をくれたのは、インドネシアの友人でした。今回は、ジャワ島西部の農村グヌンハル在住のデデ・チク君へのインタビューを掲載します。

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2.7億人の人口を誇る東南アジアの大国では、昨年3月以来、急速に感染が広まっていきました。通算感染者数と死者数は162万人と4.4万人。今年1月まで継続的に増加していたものの、直近数ヶ月間の数値は、安定的に推移しています。

――予防接種はどうでしたか。痛みや副作用はありませんでしたか。
ワクチンは地元の公立保健所(プスケスマス)で、今月6日に1回目を、20日に2回目の接種を受けたよ。初回は全然問題なかったけど、2回目の後は左腕の痛みが1日ほど続いた。お医者さんの注射のやり方が下手だったかもしれない。公費負担のため、無料だった。来月からは、インドネシア商工会議所(KADIN)が民間企業向けに有料で販売する方式も設けられるけど、自分は政府が国民全員を対象に実施する公的事業を通じて予防接種を受けたからね。

保健所での予防接種の様子

――インドネシア全体の進捗状況は。
1月中旬に始まって以来、総回数は1730万回、2回分を完了した人は616万人で全人口の2.3%。(筆者注:日本はそれぞれ153万回、83万人、0.7%)保健省は、来年3月までに1.81億人にワクチン接種を完了させる計画を立てている。09年の新型インフルエンザ流行の際、先進国にワクチンを独占された教訓から、今回は外務省や保健省などが早期から交渉に動いていた。しかし、アストラ製の血栓疑惑や輸出規制などに直面し、予定通りに進んでいるとは言い難い状況だ。

――国民の2.3%しか完了していないのに、なぜ早期に接種できたのですか。
職業訓練校の職員として働いているためだよ。卒業生を専門に応じた分野で就職できるよう支援するのが仕事だ。対面授業を早く再開するために、政府は学校の教職員を優先的に接種させている。医療従事者も優先させているけど、どういう基準や順番、段取りで進められているかはよく分からない。

――どのメーカーのワクチンを接種しましたか。
インドネシアは世界各国の様々な企業に発注している。COVAXの枠組みに加えて、米ノババックス、米ファイザー、英アストラゼネカなどから独自に調達しており、最も多く頼っているのは中国シノバック製。同社とインドネシア国営企業のバイオファーマが共同生産したものは、ウラマー評議会(イスラム聖職者会議)でハラール認証を受けている。自分はどの製造会社のワクチンになるか事前に知らされていなかったけど、証明書に「CoronaVac」と書かれていたから、シノバック製を接種したのだと思う。

――中国製のワクチンを大量に輸入している理由は。
インドネシアは人口が多いので、世界中の様々な会社から大量のワクチンを買い集める必要がある。欧米企業が作ったものの方が有効性や安全性が高いことは当然知っているが、多くの国々が発注しているから、十分な量が手に入らない。一方、中国は積極的に販売・輸出してくれるうえ、価格も安いから頼っている。一昨日には、ジョコ大統領が習近平国家主席と電話会談した。大統領は中国共産党の一帯一路政策を賞賛し、習首席も「中国はインドネシアと引き続き協力を行い、インドネシアの地域ワクチン生産センターの建設を支援する」と応じたらしい。

――そもそもワクチンの接種は熱望していましたか。製造会社の希望はありましたか。
特段熱望していた訳でも、嫌だった訳でもないかな。気持ちは普通だったよ。アストラ製は血栓が出来やすく、かつハラールではないとの噂があるし、中国製は有効性が疑わしいという噂も流布している。情報は錯綜していて、何が正しいのかよく分からない。どちらかと言えば、中国製の方が怪しい気はするけど、メーカーの希望はなかったよ。

――ファイザー製のワクチンを超低温での保管や輸送することは可能ですか。
国土の東西の幅は約5000km、島嶼は1.4万ほどある。離れ小島に運ぶのは大変かもしれないが、自分はジャワ島に住んでいるためよく分からない。

――コロナ禍が収束したら、何を望みますか。
より良い職を得たい。