デート・ぽっちゃり・・・変わる語釈

「きみは、『右』を説明しろと言われたら、どうする」

 

三浦しをんさんの小説『舟を編む』(光文社)に登場する言葉です。辞書を作る人々を描いた作品は話題を呼びました。さて、皆さんは、どう答えるでしょうか。筆者は「車両用の信号機の赤の方」を思いつきましたが、調べてみたところ海外の信号機は縦向きがスタンダードのようです。ペンを持つ方とすると、左利きの人を無視したことになります。

 

言葉の解釈をより多くの人に分かりやすく、適切に説明することは意外と難しいものです。気を配らないと、誰かを無視したり傷つけたりする可能性さえあります。何気なく使っている説明文の一つひとつには、編者の方の配慮とこだわりが詰まっているのではないでしょうか。ちなみに作中の主人公は「体を北に向けたとき、東にあたる方」と答えていました。

 

7日付の朝日新聞夕刊に「【女】とは【男】とは、辞書も省みる」と題した記事が掲載されていました。2020年11月に発売された三省堂の「新明解国語辞典」の第8版では、第7版の刊行を終えるとジェンダーに関する語釈を集中的に見直したそうです。

 

改訂は9年ぶり。今回、紙の束に書いた約1千項目のうち、半数の言葉の解釈を改めた。

 

【デート】は第7版で「(愛し合う男女が)日時を決めて、各自の家以外の場所で会うこと」となっていたのが、「交際している相手と日時を決めて、(各自の家以外の場所で)会うこと」に改められています。他の改訂でも、主語や対象に関して「女性の」や「男性が」を外し、全体的に性別を限定しないように工夫していました。【ぽっちゃり】については、「小太りで、体全体に丸みがあり、かわいらしく見える様子」となっていますが、改訂前は「若い女性が」という主語がつけられていました。自分自身も周りの人も男女関わらずに使っていたので驚きです。9年という時間の中でも人々の考え方がどんどん変わっていることを感じます。

 

「辞書は、言葉の海を渡る舟だ」

 

『舟を編む』の中で一番好きな一節です。人は辞書という舟に乗って、言葉の大海原から必要な語を探しだす。「もっともふさわしい言葉で、正確に、思いを誰かに届けるために」。辞書編集者の熱い想いが込められています。辞書が舟なら、そこに盛り込まれる言葉、その語釈、用例は大航海に無くてはならない部材です。ジェンダーの平等の実現、LGBTQへの理解など新しい波が押し寄せているなかで、それを乗り越えるために古くなった材料は取り替えるか補修しなければいけません。これからの社会でも辞書は変わり続け、さまざまな人々が思いを伝える際の手助けとして働き続けることを期待します。

 

 

参考記事:

7日付 朝日新聞夕刊(東京4版)1面「【女】とは【男】とは、辞書も省みる 育児・家事・化粧…言葉の解釈見直しの動き」