誰ひとり取り残さない

「誰ひとり取り残さない」

SDGsの目指す世界。私はこの言葉がとても好きです。誰かの幸せが、誰かの犠牲の上に成り立つ。遠い場所で起こりすぎて、誰かの犠牲に気が付かない。自分の「当たり前」にかき消されて、誰かの犠牲に気が付かない――。この世界が抱える問題に光をあてたとき、弱者を「誰一人として取り残さない」ことにこそ、私たちがめざすべき目標は包括されるように思います。

昨日「ぴーちゃんは人間じゃない」という漫画に涙が出ました。Instagramの「イラストでわかるADHD/ぴーちゃん@パレットーク」(palettalk_ppp)というアカウントから発信されています。4枚×40話の連載エッセイ漫画で、イラストレータの主人公「ぴーちゃん」がADHDや発達障害についてわかりやすく紹介しており、1日で一気に読み切ってしまいました。

つい1年前に障害が分かった「ぴーちゃん」。彼女の場合、「聴覚などの感覚が過敏」「時間の管理や計算が苦手」「忘れ物やなくし物が多い」「空気を読むことが難しい」などの特性が周りに理解されず、生きづらい生活を送っていました。育ててくれた祖母からは「頭のおかしい子」と言われ、友達関係もうまくいきません。相談したスクールカウンセラーにはただ同情されて終わってしまいます。

どう頑張っても遅刻が多くなってしまったり、話を聞きながらメモを取るというマルチタスクができなかったりと、世間的にできて当たり前とされるところでミスをしてしまうことで居場所はなくなり、うつまで発症してしまいます。彼女の感じとる世界が、世間一般で考えられている世界とは大きく違うということが、イラストを通じてよく理解できます。

彼女がイラストレータとして動きだし、うつを克服し、ADHDと向き合いながら楽しく仕事や生活ができるようになるまでの様々な工夫や周りの支援ぶりからは、気づかされることが多くありました。例えば、会議中雑音が邪魔で聞きたい話が聞こえなかったり、話題があちこちに飛んでしまったりすることで、話についていくことが難しくなってしまう場合。「話についていけるか、をときどき確認してもらう」「話がどうしても逸れる場合は『今から○○の話をしよう』など一旦切り替えの言葉をかける」「話しているとき、考えているときに急かさない」などの配慮が効果的です。苦手なことがある彼女だけでなく、他の人にとってもより生産性の上がる会議につながります。

私もボランティア活動の際、ADHDの障害を持つ子どもとの接し方に悩んだことがありました。暴力をふるってしまう子どもに「やめてほしい」と真剣に伝えても、本人は笑うことを止めません。時間をかけて伝えようと思っても、すぐに全く関係のない質問を投げかけてきます。怒りや、伝わらないことへのやるせなさを感じ、特別支援学校の教員をめざして勉強中の友人に相談しました。「一方的に伝えている間も注意があちこちに飛んでしまうから、こちらから質問を投げかけてみると良いよ」。アドバイスをくれた友人が去り際に語った一言に、はっとさせられました。

「きっと彼にとっては刺激にあふれた世界なんだろうねえ」

どれだけ彼の見えている世界を想像できていただろうか。彼は「やろうとしていない」のではなく「できない」ということが頭から抜け落ちていたのではないか。「できない」のは、彼の怠慢、甘えだと思っていた部分があったのではないか。

自分の当たり前を押し付けない。「どうしてこれができないの?」を責める言葉として使わない。できないのは気合や根性、真面目さが足りないからだと思い込まない。どうしてもできないことを責めるのではなく、どうしたらできるようになるのか、具体的な対策を、本人と対話しながら一緒に考える。そもそもその「できないこと」が目的達成のために必須なのか、検討してみる。

これらは、ADHDなどの発達障害や、病名がつく症状を持つ人に限らず、「苦手なこと」を抱える誰にでも必要とされることでしょう。すべてにとって生きやすい社会にするために。誰一人取り残さない世界にするために。他の人が見えている世界を想像することを大事にしていきたいものです。

 

参考記事:

6日付 朝日新聞朝刊(愛知14版)1面「DV相談員 非正規女性頼み 共生のSDGs 明日もこの星で」

朝日新聞・日経新聞・読売新聞 SDGs関連記事

参考資料:

Instagram イラストでわかるADHD/ぴーちゃん@パレットーク

パレットーク うちのインターン生はADHDです。