「忠誠の誓い」とアメリカ社会の矛盾

連邦議会議事堂の外壁を登る人々。侵入して窓ガラスを割る人々。映像を見てどこの国の出来事だろうと思っていたら、アメリカだと分かった。その瞬間私は驚きを隠すことができなかった。

6日、バイデン次期大統領の当選を確定する上下両院の合同会議が行われていた連邦議会議事堂内にトランプ大統領の支持者が乱入した。この大混乱を受けワシントン特別区のバウザー市長は18時以降の夜間外出禁止令を出し、トランプ大統領もついに「撤収」呼びかけを余儀なくされた。

騒然とする首都。自分が小学生の頃に住んでいた場所がこのような状況になってしまっていることが悲しく、またこの暴動を煽ったのが大統領本人だという事実に、アメリカの凋落振りを感じた。

アメリカの公立の学校では、始業前にPledge of Allegiance(忠誠の誓い)を暗唱する習慣がある。アメリカ合衆国への忠誠を表す宣誓で、その内容は以下の通り。

 I pledge allegiance to the flag of the United States of America and to the Republic for which it stands. One nation under God, indivisible, with Liberty and Justice for all. (私はアメリカ合衆国国旗と、それが象徴する、万民のための自由と正義を備えた、神の下の分割すべからざる一国家である共和国に、忠誠を誓います)

宣誓を行うときは必ず起立し、右手を左胸に当て、合衆国国旗に顔を向けて暗唱しなければいけない。私の通っていた小学校でも毎朝宣誓の時間があったが、当時の私は何をさせられているのか理解しないまま、クラスのみんながやるように見様見真似で唱えていたことを思い出した。

「万民のための自由と正義」。この忠誠の誓いで謳われているアメリカ合衆国の自由と正義は今、危機にさらされている。国内で政党間や人種間、階層間の亀裂が浮き彫りになり、ついにはトランプ大統領が吹聴する陰謀論に煽られて暴徒と化した支持者が連邦議会議事堂に乱入した。議会が物理的に妨害され、最後まで平和的な政権移行は実現しなかった。

法も秩序もない社会を前に、今のアメリカの小学生たちは何を思うのだろうか。忠誠の誓いとの矛盾を、大人はどのように説明するのか。未来のアメリカを担う子供たちが何気なく唱えている忠誠の誓いにふさわしい社会が戻ることを、太平洋の反対側から願うばかりである。

参考記事:

8日付 朝日新聞朝刊(東京14版)1面 「米議会占拠、4人死亡 トランプ氏支持者乱入、銃撃も 民主、上院掌握」