中村哲さんを偲ぶ

民間活動団体「ペシャワール会」現地代表の中村哲医師が殺害されてから、一昨日で1年が経ちました。現地医療だけでは目の前の命を救えないと、干ばつが厳しいアフガニスタンでつづけた飲料水の確保や、灌漑のための井戸掘りは彼の生き方を象徴し、今でもその意志は引き継がれています。

実は筆者は、中村さんと同じ西南学院出身。彼の訃報を聞き、非常にショックを受けたことは今でも鮮明に覚えています。高校生2年生のとき、実際にお話を伺ったこともあります。危険な目に遭うことはないのかという学生からの質問に、「現地の皆さんに守られているから安心」と笑っていらっしゃったのに。全世界の宝を失ったことへの喪失感を感じました。

1周忌に合わせて、中村さんの功績を語り継ぐ絵本『カカ・ムラド―ナカムラのおじさん』が出版されました。カカ・ムラド、ナカムラおじさんとは、現地での愛称。アフガニスタンで出版された現地語の2冊をまとめ、歌手、小説家のさだまさしさんが日本語に訳されたものです。ぜひよみたいと筆者も早速買いに行きました。久しぶりに足を踏み入れる児童書コーナーで中村さんの温かさが表現されている表紙を見つけました。

『カカ・ムラド―ナカムラのおじさん』。中村さんの人柄が伝わってくる温かい表紙だ(5日筆者撮影)

読み進むとともに深く感じたことがあります。高校2年生の私は、「中村さんはすごい」と思うと同時に、私のようなちっぽけな人間にこんな偉大なことはできないとも感じていました。しかし、そのようなことを教えて下さったのではないと今なら気が付きます。亡くなってもなお彼の存在が愛されているのは、自分以上に周囲の人を大事に思っていたからです。彼の原点は、周りに目を向けることにあります。それは誰にでもできる、誰もがしなければならないことだと言われているような気がしてなりません。

「一隅を照らす」。

彼が大切にしていた、最澄の言葉。今の私たちはどうしても自分を守ることばかりに必死になり、周りを見渡すことを忘れがちです。普段暮らすところは、常に光が当たっているところとは言えないかもしれません。そこで踏ん張る1人1人が集まって、社会はよくなる。コロナ禍の日本が実践しなければならない課題です。

 

参考記事:

4日付日本経済新聞夕刊(東京3版)9面「「活動止めない」決意固く」

同日付朝日新聞朝刊(東京14版)9面「アフガンに根付く中村哲さんの志」

同日付読売新聞朝刊(東京13版)8面「アフガンにナカムラの縁」

5日付朝日新聞朝刊(東京14版)9面「「武器持たぬ英雄」絵本に」