「90%以上有効」のコロナワクチン 異常な期待と不安

新型コロナウイルスの予防ワクチン開発が大詰めを迎えている。米ファイザーと独ビオンテックが共同開発するワクチンの臨床試験で、90%以上有効との初期データを得られたとの発表があった。中間報告ではあるが、世界中で注目を集めている。安全性を巡る重大な懸念はなく、今月中にも緊急使用に関する米規制当局の承認を申請する見通しだ。

超短期間で治験までたどり着いたワクチン。日本政府はファイザーから来年6月末までに、6000万人分の供給を受け取ることで合意している。また、衆院本会議ではワクチン接種関連法案が審議入りした。国民全員分の接種にかかる費用と、健康被害が出た場合の損害賠償を国が負担する。

ファイザーの発表を受けて、9日のニューヨーク株式市場では幅広い銘柄が買われた。ダウ平均株価は一時、前週末比1600ドル以上も上がり、3万ドルに迫った。東京市場でも航空や鉄道などの外出制限の影響を受け業績が下がった企業を中心に、買い注文が集まった。

だが、手放しで期待を寄せていいのだろうか。そもそも90%以上という数値は、約90人という少数のサンプルから割り出されたもの。あまりにも早計で、「有効性90%以上」というフレーズが先走りしている印象だ。通常であれば開発までに数年はかかるワクチン。たった数か月でどれだけの安全性が担保されているのか。数値上では良好であっても、実際の接種は慎重に検討する必要がある。

他にも問題は山積みだ。ファイザー社のワクチンは零下70度以下で保管する必要がある。つまり、輸送コストが高く、温度が変わると劣化したり、有効性が薄れたりしかねない。各都道府県の医療機関にまで届けるのは極めて難しく、1ヶ所での集団接種になる可能性が高い。

言うまでもないが、最大の懸念は「副作用の有無」だ。新規感染者が膨らみ、「第三波」が訪れようとしている。また、来年に延期された東京オリンピックも考慮すると、新薬に頼りたい気持ちは理解できる。しかし、効果も副作用も実証されていないにも関わらず、ワクチン接種を推奨するような動きには大きな疑問がある。二次災害の可能性を踏まえ、性急な判断は避けるべきだろう。

コロナ禍のもとで久しぶりの朗報ではある。研究が進み、有効性が高いことが証明されれば、終息に向けて一歩踏み出せるはず。しかし、接種には慎重な姿勢が大事だ。現段階では不要不急の外出を控え、マスクを着用するなど、従来の予防対策が徹底されているのかを再確認することを優先すべきだろう。

参考記事:

11日付 読売新聞朝刊(大阪13版)4面「ワクチン確保 「全力で」」

同日付 日本経済新聞朝刊(大阪13版)3面「ワクチン 実用化大詰め」