変わりつつある芸能人の自殺報道

気がつけば、2020年も残り3ヶ月を切っている。今年の世界のトップニュースといえば言うまでもなく新型コロナウイルスの流行だが、日本ではいつもに比べて芸能人の自殺が目立った年でもあった。

コロナ禍という社会情勢がどこまで関係しているのかは分からないが、5月には『テラスハウス』に出演し誹謗中傷を受けた木村花さん、7月には俳優の三浦春馬さん、そして先月は女優の竹内結子さんが自ら命を絶った。

こうした芸能人の自殺が増えた今年は、自殺に関する報道のあり方も大きく変化したように感じる。これまで著名人が亡くなられた際は、センセーショナルな報道や、その人の人生を振り返るような内容の取り上げ方が多い印象だった。それに比べて最近は、テレビのニュースを見ていても自殺に関する報道はわりとあっさりと扱われ、さらに番組の最後には必ず「いのちの電話」などの相談先やホームページなどが紹介されていることに気づいた。

そこで調べてみると、実際に厚生労働省がWHOの「自殺報道ガイドライン」をメディア関係者に提示していることを知った。このガイドラインは、「自殺の報道を目立つところに掲載したり、過剰に、そして繰り返し行わないこと」、「(自殺を考えてしまう人に対して)どこに支援を求めるかについて情報を提供すること」、「遺された人に対してのインタビューは慎重を期すること」などを求めている。

自殺時の具体的な状況や手段を詳細に報道するとそれを真似してしまう人がいるかもしれないし、そもそも自殺を問題解決法の一つとして捉える人も増えるかもしれない。また「自殺」という言葉を見出しに大きく使うと、意識しなくても目に入ってしまうこともあるだろう。

実際に芸能人の自殺報道が自殺者の増加に影響するということはデータでも示されており、こうした悲劇の連鎖を招かないように報道機関には慎重な姿勢が求められる。特に今年はコロナ禍で心理的に不安定になっている人が増えていると考えられるからこそ、なおさら芸能人の訃報については、報道する公益性とのバランスを考えなければいけないと思う。

一方で芸能人は注目を集めやすいからこそ、今同じような状況で苦しんでいる人を救うチャンスが増えるということでもある。最近の報道のように、悩んでいる人向けの相談窓口の連絡先が紹介されれば、芸能人の自殺を報じることに社会的意義はあるように感じる。もちろん多くの人がその報道に触れるリスクがあるのは考慮の上で、少しでも良い方向に影響するよう今後も自殺報道のあり方については議論が必要だろう。

参考記事:

3日付 朝日新聞朝刊(東京14版)31面 「(Media Times)著名人の急死、どう報じた」