今しか味わえない青春に救いの手

 コロナの感染が沈静化しつつあるなかで、イベントの開催やお店の再開が少しずつ始まっています。筆者も都心でアルバイトをしていますが、一か月前と比べると人出がだいぶ増えてきました。高校生の弟も、学校が再開してからもしばらくは午前と午後に分かれての登校だったのが、今週から通常登校が始まりました。今までオンラインでしか話せなかったり、短縮授業ですれ違いだったりした友達と久しぶりに会えて、喜んでいました。その一方で、まだ部活動については、運動場や体育館に密集することがないように時間を短くしているそうです。
 
 その部活ですが、今春中止になった選抜高校野球大会に出場予定だった32校が「交流戦」という形で甲子園球場に招待されることになりました。Twitterでは喜ぶ声が多いなか、感染リスクを心配する声も上がります。長距離移動では公共交通機関の使用を極力避け、宿泊を2泊以内にするなど、ガイドラインを決めて開催するそうです。

 塾で中学生を教えていますが、バスケ部に所属するある3年生の男の子に「学校どう?なんかコロナの影響ある」と軽い気持ちで聞いたところ、みるみる顔がくもり、次のように答えてくれました。

「コロナのせいで、ちょうど今頃やるはずだった大会がなくなっちゃったんだよね。できないのはわかるけど、ようやく三年生になってレギュラーもらえて嬉しかったのにめっちゃ悔しい。今も練習始まったけどなんのために練習すればいいのかわかんない。このままなんもないまま引退になるのほんと訳わかんない。」

 2年間大会での先輩の勇姿を見てきて彼らにとって、引退前の大きなイベントである県の大会に向け、忙しいなかでも練習を頑張ってきたそうです。楽しげに部活に打ち込んできた姿を目の当たりにしてきたこともあり、心が締め付けられました。たとえ高校で同じ競技がやれたとしても、楽しみや目標としていたものがコロナというどうしようもない理由で奪われた精神的ショックが大きいように感じられました。中学での思い出は、今しか作れませんから。

そんな中での甲子園での「交流戦」です。高校最後で最大の目標だった夢の切符を手にしながら、直前で奪われ悔しい思いをした選手たちにとって、心の救いになったのではないかと思います。

 様々なイベントがなかなか開催に踏み切れない中、これは大きな前例となるでしょう。命に代わるものはもちろんありませんが、感染の危険があるという理由でばっさり切るのではなく、何かできるものはないのかを模索していく必要があるでしょう。
 1年後に控えたオリンピックも同じです。できる形で開催し、努力を重ねた選手たちの姿を見られたらいいのですが。