マスク拒否 裁判傍聴から考える

先日、こんな見出しが目に止まりました。「弁護士がマスク拒否 2時間超中断」。記事によれば、「人生を決める重大な裁判。マスクをすることは難しい」とする弁護士とマスクの着用を求める裁判所が激しく対立しました。結果、弁護人のマスク着用なしで、審議が再開。これがネットにも配信されると大きな反響を呼びました。

 記事に対する反応は、「(弁護士は)めんどくさいひとだ」「反抗期の子どもみたい」など否定的なものばかり。ただ、私は、弁護士の言動に一理あるなと思いました。なぜなら、弁護士の懸命な訴えが、裁判を動かす姿を直接見てきたからです。

 最も印象に残っているのは、東京都立川市のホームレス男性の裁判。10年前から定職につけていない60代の彼は、公園などに捨ててある空き缶集めで生計を立てていました。事件が起こったのは猛暑の真夏日でした。ただ涼むためだけに大型ショッピングモールに入りました。しかし、ふと喉が渇き159円の焼酎を一本手にとり、店の外に出ようとしたところを現行犯逮捕。そして、起訴されました。

 「親族は誰1人おらず、誰に相談すれば良いか分からなかった。市役所に行ったが、住所不定のため、生活保護制度も受けることが出来なかった」。実際、傍聴席には私を含め面識のないひとが数人だけ。淡々と審理は進んでいきます。ただ、ひとつ気になる点がありました。それは再犯をはっきりとは否定しなかったことです。検察官から「もうしませんよね?」と尋ねられても、なかなか首を縦に振りません。そこで、弁護士は住まい探しや生活保護申請を一緒にやることを提案。ようやく、再犯しないことを約束しました。その結果、罰金10万円の有罪判決が下されました。

 淡々と話すのではなく、熱意を込めて身振り手振り話す弁護士の姿が、彼の頑なな態度を変えたのです。この裁判を傍聴していなければ、おそらく私も、マスクの着用を拒んだ弁護士のことを否定的にみていたことでしょう。しかし、マスク拒否は妥当な判断だと考えます。表情もコミュニケーション手段の一つで、裁判の展開も左右しうるからです。

 アクリル板の設置や、席の間隔を十分に確保すること、閉廷後は念入りに消毒すること。予防を徹底しさえすれば、マスク無しでも大丈夫だと私は考えます。

 

参考記事:

3日付 朝日新聞朝刊(東京14版)24 面(社会)「弁護人がマスク拒否 2時間超中断」

 

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