正義を思いやりにかえて

先日スーパーに行ったときのことです。
「混雑を避けるため、代表者1人の買い物を求めます」「感染予防対策の上でのご来店をお願いします」との呼びかけに加え、また一つ注文が増えていました。

マスクをされていない方へのお声掛けはご遠慮ください。

緊急事態宣言が出て1か月。自粛疲れが深刻です。それに伴い、ストレス発散の矛先が不健全な方へ向いてきているようにも感じます。上記の異例といえる店内放送があるのも、客同士のトラブルが元ではないかと考えられます。

感染予防のためにマスクをつける。不要不急の外出はしない。どちらも正しいことであり、かつ全員が心掛けるべきことです。しかし、「正論」を盾に他者を中傷するような振る舞いは、許されることではありません。

ニュースで取り上げられることが増えた「他県ナンバー狩り」もその一つです。他県のものだと、「自粛をしていない」という理由で車体に傷がつけられる、SNSに写真が投稿されるといったケースが多発しています。たしかに、不要不急の外出で他県に来た人もいるでしょう。一方で、仕事などやむを得ない事情の方や、その土地の住民であってもナンバープレートを変えていないだけで被害にあった方もいます。

「感染拡大を防ぐため、外出するな。県を越えるえるなんて論外だ」。一見、その主張は正しいものに見えます。しかし、相手の事情も知らないのに、他者を責める資格は誰にもありません。まして、車を傷つけるような行為は器物損壊罪、犯罪です。どんなに立派な理由を振りかざしても、正当化されることはありません。

家に籠ること一か月。テレビをつけても、新聞やパソコンを開いてもコロナ一色。だんだん気持ちも荒んできます。しかし、ふとしたことで気持ちが和んだこともありました。それは、別の日のスーパーでのこと。マスクをしていない女性を呼び止めたご老人。トラブルかと思い、私はその場を急いで立ち去ろうとしました。ところが、耳に飛び込んできたのは「マスクあげるから、マスクをしなさい」との声でした。

今必要とされるのは、お互いを思いやり、支え合うことです。改めてそう実感した出来事でした。残念ながら、まだまだ自粛生活は続きます。それでも、他人を不満のはけ口にしないように。敵はウイルスであり、人間同士は協力し合って乗り越えなければいけません。そのことを1人1人が再認識して行動することが求められています。

参考記事
13日付 朝日新聞(東京14版)26面(社会)「感染者へ中傷 激化」
10日付 日本経済新聞(東京12版)1面「春秋」