子宮頸がんワクチン もう一度議論を

 

昨日の日経新聞夕刊に気になる記事がありました。子宮頸がんワクチンの話題です。なぜ目にとまったのか。筆者も接種をした一人だったからです。

皆さんは数年前の子宮頸がんワクチンに関する一斉提訴を覚えていますか。2016年7月、ワクチンの副作用で痛みや運動障害などの症状が出た15~22歳の女性63人が国と製薬会社を訴えました。高校3年生だった筆者もテレビや新聞が大きく取り扱っているのをみて、私は大丈夫だろうかと気が気でなりませんでした。当時の様子はあらたにすの「子宮頸がんワクチン、苦しんでいる人たちがいる」に書きました。

あれから4年。記事には提訴後のことが書かれていました。見出しは「HPVワクチン適切な対応を」。これだけを見るとワクチン接種を否定する論調なのかと思いますが、内容はその逆でした。

その中身に踏む込む前にそもそも子宮頸がんとはどういった病気なのでしょう。国立がん研究センターによると、子宮の入り口の子宮頚部と呼ばれる部分から発生し、進行すると月経中でないときや性交時に出血したり、濃い茶色や膿のようなおりものが増えたりするそうです。多くのケースで、ヒトパピローマウイルス(HPV)の感染が関連しており、性交渉で感染します。

HPVワクチンはこの感染を予防するためのものでした。日本も2013年に定期接種が始まりますが、接種後にさまざまな症状の訴えが相次ぎ、厚生労働省は「積極的な推奨」を中止。筆者も、それで被害者がいなくなるのであればよいのではないかと思っていました。

しかし、記事の執筆者である東京大学病院の中川恵一さんは以下のように呼び掛けています。

 

名古屋市はHPVワクチンと接種後の副反応との因果関係の解明を名古屋市立大学の鈴木貞夫教授に依頼しました。(中略)結果は「HPVワクチンと症状との間に有意な関連性は見いだされなかった」というものでした。(中略)世界保健機関もこのワクチンの有効性と安全性を表明しています。しかし、副反応を大きく取り上げた日本のマスコミは「名古屋スタディー」をほとんど報道していません。一方、ワクチン接種を早期に始めたオーストラリア・英国・米国・北欧などの国々では、すでにワクチン接種世代のHPV感染率は劇的に減少し、ワクチン未接種世代と比較して、子宮頸がんの前がん病変が減少しています。(中略)政府の適切な対応を期待します。

 

主眼は政府に対する呼びかけですが、それ以上に中川さんのマスコミに対する不信感が気になりました。

数日前、筆者は水俣を訪れ、水俣病を学ぶ機会がありました。これまで受験勉強の一環としての「知識」として暗記していただけでしたが、現地に足を運んでみると反省ばかり。知ったかぶりで、実は何もわかっていなかったのです。中でも衝撃的だったのは当時のマスコミ報道でした。水俣病という病名がまだなかったはじめの頃、新聞は水俣病のことを感染病あるいは奇病と表現しました。そのことが水俣病患者の差別や偏見につながり、村八分になったのです。

新聞は時に表現によってミスリードを生むことがあります。子宮頸がんワクチンと水俣病。どちらも原因がわからず報じ方も難しかったのでしょう。だからこそ偏った思い込みへとミスリードしないように、気を付けなければなりません。そして今回の記事にもあったように、何か新事実が分かれば意固地にならず、情報を発信していかなければなりません。新聞は記者のためではなく読者のためにあるべきだからです。

ワクチンについて議論が再開することを心から願います。

 

参考記事:

2月5日日本経済新聞夕刊くらしナビ東京「HPVワクチン適切な対応を」

参考資料:

国立がん研究センター 子宮頸がん