戦争を防止するためには、被害も否定するべきか

5月4日、ホルムズ海峡付近にいた韓国関連の貨物船で火災が発生しました。日本経済新聞などによると、火災が起きたのは、韓国海運大手HMM(旧現代商船)が運航するパナマ船籍の貨物船で、人的被害は確認されていません。トランプ米大統領がSNS上で「イランによる攻撃だ」と主張する一方、在韓イラン大使館は関与を否定しました。さらに韓国政府は10日、「正体不明の飛行体」が衝突したことによる火災との調査結果を公表し、発射元については明言を避けています。

 

韓国政府が慎重な立場を取る背景には、複雑な外交事情があります。読売新聞は、米国とイラン双方との摩擦を避けたい李在明政権の思惑があると報じています。仮に韓国政府が「イランによる攻撃」と断定すれば、トランプ政権からホルムズ海峡への韓国艦艇派遣を求める圧力が高まる可能性があります。中東情勢が緊迫するなかで、韓国としては軍事的関与を拡大させたくないという現実的な判断があるのでしょう。

 

また、韓国政府はこれまでも、ホルムズ海峡周辺に足止めされている自国に関係する船舶の通航問題を巡り、イランとの独自交渉を続けてきました。外相特使を派遣するなど、対話による解決を模索してきた経緯があります。そのため、今回の件を「イランの攻撃」と断定してしまえば、現在も周辺海域に残る約30隻の船舶の安全や通航交渉に悪影響を与える恐れがあります。

 

一方で、韓国国内では政府の対応への批判も出ています。保守系最大野党「国民の力」の張東赫(チャン・ドンヒョク)代表は11日、「我が国の船舶が被害を受けたにもかかわらず、政府は口を閉ざしている」と批判しました。国家として自国民や自国船舶への攻撃の可能性に曖昧な態度を取り続けることは、「事実から目を背けている」と映る面もあります。

 

確かに、戦争は絶対に避けるべきものです。戦いが始まれば、多くの命が失われるだけでなく、経済や市民生活にも大きな影響を与えます。そのため、韓国政府が慎重な姿勢を取ることには一定の理解ができます。

 

一方で、国民の安全や財産を守ることは国家の大切な役割です。自国に関係する船舶が被害を受けたのであればなおさらでしょう。もし発射元を断定することでさらに状況が悪化し、周辺海域に残る韓国関係船舶の安全が脅かされるのであれば、政府としては簡単に結論を出せないのでしょう。外交や安全保障では、強い発言がかえって緊張を高める場合もありますから。

 

この問題は単純に「真実を明らかにするべきだ」「いや、対立を避けるべきだ」と簡単に割り切れるものではないように感じます。戦争を避けたいという思いも理解できますし、国民の財産や安全を守るために被害の実態を重く受け止めるべきだという考えにも納得できます。どちらも国家にとっての重要な責務であり、その狭間で政府が難しい判断を迫られていることが今回の件から伝わってきます。

 

筆者自身、どちらが正しいのか簡単には答えを出せません。戦争を避けるために慎重な対応を取るべきだと思う一方で、自国の船舶が被害を受けた状況を前にして複雑な感情を抱いています。国家として対立を回避することと、国民の安全や財産を守ること。その二つをどう両立させるのかという難しさが、今回の問題には表れているように感じました。

 

日本経済新聞、2026年5月10日、「韓国外務省、ホルムズ海峡の船舶火災『正体不明の飛行隊2機が衝突』」https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGM101KE0Q6A510C2000000/(最終閲覧日2026年5月13日)

読売新聞オンライン、2026年5月12日「貨物船爆発 悩む韓国…ホルムズ 米・イランへ配慮 発射元言及せず」https://www.yomiuri.co.jp/world/20260512-GYT1T00023/(最終閲覧日2026年5月13日)