日本国憲法は3日、施行から79年を迎えました。高市早苗首相は、2027年春までに改正の発議にめどを立てるとの目標を掲げています。緊迫する中東情勢の中で、我々にできることには何があるのでしょうか。
結党以来、憲法9条にこだわり続ける自民党。高市首相は前回の衆院選中の演説で、「憲法になぜ自衛隊を書いちゃいけないんですか。誇りを守り、実力組織として位置づける。当たり前の憲法改正もやらせてください」と訴えました。
中東を取り巻く戦争状態は、未だに混沌を極めています。イランと戦争を始めた米国のトランプ大統領は、ホルムズ海峡の「航行の安全」のため、日本を含む各国に艦船派遣を求めました。高市首相は、3月の日米首脳会談の際にはこれに応じず、日本国憲法に触れながら「できることとできないこと」を伝えたとしています。
日本国憲法は平和主義を掲げ、9条では戦争放棄、戦力不保持を宣言しています。このため政府は、中東などにおける他国の戦争に自衛隊を送る「海外派兵」は原則としてできないとしています。 一方で、停戦合意ができれば、ホルムズ海峡での「航行の安全」の確保や、戦争で被害を受けた中東諸国への支援などで、日本としての貢献を考えていくという立場も確認されています。
その一方で、改憲に向けた動きは日々強まっています。高市首相は憲法記念日の3日、改憲派が都内で開いた集会に「議論のための議論であってはならない。政治家が国民の負託に応えるために行うべきなのは決断のための議論だ」「時代の要請に合わせて本来、定期的な更新がはかられるべきだ」と主張しています。さらに「憲法は国の礎であり根幹であるからこそ、その価値を摩滅させないために改憲が必要だ」と語り、早期の憲法改正に意欲を示しました。
特に重要な争点である「自衛隊明記」について、野党の立ち位置は割れている状況です。 中道の小川淳也代表は3月の記者会見で「護憲派やリベラル派まで自衛隊を支持しているのだから、その思いまでくんだ自衛隊明記論は議論に値する」と述べ、「戦争放棄」「戦力不保持」に加え、政府解釈の「必要最小限度」が保たれるのであればと理解を示しました。ただ、「戦力不保持」を削る維新案は批判し、「歴史修正主義的、観念論的な改憲論にくみするつもりはない」とも語っています。中道、立憲、公明の3党は連携して高市政権への対抗軸を示すとしており、憲法論議でも調整が必要でしょう。
改憲に向けた動きの高まりに対して、各地で反応が起こっています。熊本市では、改憲派と護憲派がそれぞれ集会を開き、憲法のあり方を巡って考えを深める動きも見られました。3日に熊本城ホールで開催された、改憲派による「憲法フォーラム」では、自民党の有村治子総務会長が講師として登壇しました。一方で、護憲派の市民団体は、くまもと県民交流館パレアで「憲法をまもる熊本県民のつどい」を開きました。 熊本大大学院の徳永達哉准教授は、憲法9条1項にある「武力」という言葉に触れ、「実力の行使だけでなく、力を見せつけて従わせる暴力も『武力』になる」との見解を示し、「『武力』を放棄しているのは日本だけだ」と憲法の尊さを訴えたといいます。
民間でのデモも広がっています。2月末、高市政権の衆院選圧勝をきっかけに首相官邸前で起こったデモ以降、「改憲反対」を訴える行動は各地で続いています。主催者発表では、集まったのは2月末で約4千人。その後国会前に場所を移し、3月10日約8千人、3月25日約2万4千人、4月8日約3万人、4月19日約3万6千人と続きます。国会前にこれだけ人が集まるのは、安倍晋三政権が安全保障関連法案を強行採決した2015年以来だという声も上がっています。
このような動きが見られるなか、高市政権は各社の世論調査で高い支持率を維持し続けています。ある種の「分断」とも呼べるこの現象を、成蹊大の伊藤昌亮教授は、「デモ参加者と高市氏の支持者が見ているものは全く異なる」と指摘します。また、SNSの普及によるエコーチェンバー現象も見逃せません。デモに参加した女性(39)は、衆院選に関する自身のSNSのタイムラインには「アルゴリズムによって、自分と同じ意見が並んでいただけだ」と、選挙の後に気づいたと語ります。
対話は民主主義の根幹です。 日本国憲法第96条では、憲法改正の手続きについて、「国会で衆参各議院の総議員の3分の2以上の賛成を経た後、国民投票によって過半数の賛成を必要とする」と定められています。熱狂的な支持者や反対勢力がそれぞれ声高に主張する中で、対話や意見交換の場を増やすには、どうすべきなのでしょうか。「分断」の現状に対する、新たな議論の可能性を探らねばなりません。
歴史家の井上寿一学習院大学教授は、日本の現状について、「(19)30年代の日本の国際的な位置を想起させる。『新しい戦前』と表現される内外の情勢が年々、強く感じられるようになっている。当時の轍を踏まないために、平和主義を堅持しつつ世界の平和と安定の構築をめざすべきだ。そのような国家像を創出しなくてはいけない」と、危機感を示します。そして、改憲や歴史に関する人々の学びについて、「その気になれば、いつでもどこでも学ぶことができる。そこから新たな国家像の確立につながることを期待する」 と、その可能性を語ります。
改憲や自衛隊明記について、「あなたの立場は」と問われた時、すぐに答えられる人は少ないと思います。国民一人一ひとりの間で、満足のいく意見交換がなされないまま、国民投票に突き進むわけにはいきません。憲法記念日は過ぎてしまいましたが、身近な人と憲法について話すのもよいでしょう。単純なことに回帰するようですが、地道な学びと意見交換の姿勢こそが、我々にできる民主主義の、そして平和の守り方ではないでしょうか。
憲法とは何か、改憲の具体的な争点はどこなのか、これまでの憲法や自衛隊にどのような歴史があったのか。根本的な論点に立ち返りながら学ぶことを通じ、広い視野での対話の道が開けることを願います。
参考記事
朝日新聞デジタル
2026年5月5日「改憲反対」訴え、国会前デモに集う人たち 憲法を守るのは誰なのか
2026年5月3日なぜデモは広がり、高市政権の支持率は高いのか 伊藤昌亮教授の分析
2026年5月3日高市氏がトランプ氏に伝えた憲法の話 「海外派兵」への制約とは
2026年3月31日(憲法を考える)高市政権、改憲論の行方は 自民が重視する2項目
読売新聞デジタル
2026年5月4日自民党の有村総務会長、抑止力として「自衛隊の保持」憲法に明記訴え…護憲派「武力放棄しているのは日本だけ」
日本経済新聞デジタル
2026年5月6日 分断と対立深める現代、過去を教訓に解決策探る 井上寿一氏に聞く
2026年5月3日 憲法改正「期限設けず議論」47%、世論調査 高市首相は「2027年春」