ブラジル大統領選はデジタル空間が動かした SNSを前にして一人で学ぶ意義は

新聞をめくっていて目に留まった記事がある。ブラジルの大統領選で、現職で左派のルラ・ダシルバ氏が再選を決めたことについてのものだ。 中南米ではトランプ米政権に近い右派政権が相次いで誕生していたが、ブラジルでは左派政権が続くことになった。この動きは、他国の右傾化に比べると珍しいのではないかと感じた。

その数日後、SNS上にブラジル人の投稿が流れてきた。内容は今回の左派勝利に関するもので、ルラ氏の支持者はSNSを活用し、デジタル空間を拠点として戦略的に支持層を広げる作戦をとったという。国際的なシェアが高いメッセージアプリ「WhatsApp」では1000万人超のSNSグループ「ルラ軍団」が結成され、「あと1票を探せ」をスローガンに支持と熱気を拡散した。選挙後の勝利宣言でルラ氏は「前日のサンパウロでの動員は見たことがない規模だった」と振り返った。

ブラジル紙グロボによると、フランスやスペインとなどの左派勢力でも、次期選挙に向けて同様の手法を導入する動きが出ているそうだ。ブラジルの隣国アルゼンチンではSNSでルラ陣営の手法が共有され、既にその成果が見られているという。

WhatAppを使う機会が他国に比べると少ない日本人にとっては、WhatAppで支持を広げる戦略というものは想像し難い。筆者も、SNSに流れてくるブラジル人の投稿を翻訳で読んだが、全容を理解することはまだできていない。果たしてこの大規模なSNS戦略が日本においても再現性があるのかは分からない。ただ、非常に革新的な政治的動向が、デジタル空間を通して起こっていることは確かだろう。

ブラジルに関するSNS投稿といえば、思い出すことがある。今年6月、FIFAワールドカップ2026 で日本代表とブラジル代表が対戦した時のことだ。SNS上では、匿名性がもつ暴力性に加え、対戦というワールドカップの性質も相まって、一部の日本人とブラジル人が互いの人種や歴史など、サッカーに全く関係ない事柄でののしり合う投稿が目立った。

過激な投稿は、物議を醸しやすく、簡単に国境を超えて多くの人の目に入る。おそらくあの時にブラジルの人々に植え付けられた印象も、日本人からの攻撃的な投稿のみから形成たのではないだろうか。それに比して、今回の左派政権に関するブラジル人の投稿は丁寧なものが多く、日本人との交流でもお互いが平穏にやり取りしている。アルゴリズムが認知を形成することの恐ろしさを思い知らされる。

SNSを見ていると、まるで世界中で起きている事態について細かく追えるような気もするが、実際はその多くが表面的で断片的な情報に留まっている。流れてくる多くの情報を精査するリテラシーはより一層必要になるだろう。

最近、政治や法律の仕組みについて学びなおすために、教科書的な基礎知識から再確認することを始めた。SNS上で流れてくる過激な感情に距離を取るためには、自身の知識や思考を強めることが不可欠だ。デジタル空間が選挙をもハックするこの時代において、無尽蔵ともいえる情報を鵜呑みにもシャットアウトもせず、振り回されずに向き合い続ける姿勢を保ち続けたい。

参考記事

 

読売新聞デジタル  2026年11月2日 1000万人超SNSグループ「ルラ軍団」、ブラジル大統領選挙で「いいね」や反論投稿指示…ルラ氏の逆転勝利導く

https://www.yomiuri.co.jp/world/20261102-GYT1T00323/

日経新聞デジタル 2026年10月30日 ブラジル大統領選、「1000万人網」でルラ氏逆転 SNS選挙に新機運

https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGN2800Q0Y6A021C2000000/