「米軍基地」にまつわる断片的な理解を振り返る

 先日、面白い体験をした。偶然言葉を交わした、外国籍らしい、しかし流暢な日本語を話す男性。聞くと、日本国内の米軍基地に従事する歯医者だった。男性はアメリカ生まれで、2年前にエジプトから日本に異動してきたそうだ。当然のことではあるが、基地には米軍のみならず、その生活を支える様々な仕事がある。たったの2年間で習得したとは思えないほど流暢な日本語と、母国語である英語を混ぜて語る男性と話すうちに、筆者は米軍基地について抽象的な理解しか持っていないことを自覚させられた。

 東京に住む筆者が米軍基地の存在を感じる瞬間は、大抵が空の轟音だ。一度だけ、六本木での展覧会の帰りに近くにある米軍「赤坂プレスセンター」の前を通りがかったことがある。都心にある広大な施設の存在に「これが米軍基地か」と、興奮とも恐怖ともつかない感情に包まれたのを覚えている。筆者の基地に関する実体験はそのくらいで、日本に点在するはずなのに普段は強く意識することはなかった。だからこそ、米軍基地で働いているという人と対面したことは新鮮だった。男性が生まれたアメリカの土地の気候や、上手くいかなかった恋愛など、人間味溢れる話を聞いたことは、コンクリートで囲まれた未知の世界、そこにいる確かな人間の温度を垣間見るようだった。

 米軍基地問題で最も注目されるのは沖縄だろう。9月13日投開票の沖縄県知事選では、米軍普天間飛行場の名護市辺野古移設を容認する新人の古謝玄太氏が、反対を訴え続けた現職の玉城デニー氏らを破り、初当選した。しかし、筆者が最近強く印象に残っている米軍基地に関するニュースは、沖縄ではなく青森にある。

 8月29日、国防・安全保障専門の英メディア、UKディフェンス・ジャーナルは青森県三沢市の米軍三沢基地のF16戦闘機が対イラン作戦で3月と4月に中東に展開したと報じた。在日米軍からは沖縄の海兵隊部隊なども作戦に一時関与しており、緊張が高まる中東に日本から戦力が振り向けられていることが改めて明らかになった。

 イランのアラグチ外相は共同通信に対し「平和を愛する日本の人たちは米国の犯罪について、日本政府に説明責任を問うべきだ」と指摘した。「イラン攻撃は、基地が受け入れ国を守るためではなく、攻撃的な政策に使われていることを示した。三沢基地もその一例だ」と述べたそうだ。茂木敏充外相は在日米軍が極東を越えて直接戦闘行為に入る場合は事前協議が必要になるとした上で、イラン作戦に関し「事前協議の対象とならない」と説明しているが、懐疑の声も強い。「日本国内の米軍基地」と「他国の戦争における米軍」が具体的に繋がったことには、懸念を抱かざるを得ない。

 以前、学生記者の取材で、ベトナム戦争下の沖縄を記録に残した写真家にお話を伺ったことがある。米国が本格的にベトナム戦争に参戦した65年以降、沖縄はベトナム攻撃の拠点となり、特に墜落事故が起きた68年2月からは嘉手納基地にB52が常駐を始め、ベトナムを絨毯爆撃するため連日出撃していた。写真家の方の 「当時の基地はベトナム戦争に利用されていたが、基地や米軍の存在は沖縄では変わっていない」「いつでも戦争の危機は訪れる。戦争をひとごとではなく、自分のこととして捉えてほしい 」という言葉が今も胸に残る。

 昨10月10日、毎日新聞社と映画監督の大墻敦氏が共同製作したドキュメンタリー映画「東京上空300メートル」の劇場公開が東京と神奈川、福岡で始まった。 在日米軍の飛行実態などを追った同紙の調査報道「特権を問う」を基にした作品で、1960年の締結から改定されていない日米地位協定が引き起こす問題などを問い直すという。新聞社が自らの調査報道を基に制作するという異例の取り組みにかなり興味が湧く作品も、日本における米軍に着目している。

 考えてみれば当然のことのようにも思えるが、米軍基地に歯医者として従事する人が存在する可能性を長らく想像することすらできなかった。ベトナム戦争下で暮らしていた沖縄の人々の暮らしも同様だ。一括りに「米軍基地」「在日米軍」と言っても、様々な人や組織から見えている問題や実情がある。様々な立場をとることで見えてくる基地の実態を知りたい。ニュースを追いつつ、まずは今度映画を見に出かけようと思う。

 

参考記事

日経新聞デジタル 2026年8月29日

米軍、三沢基地のF16戦闘機を中東展開 イラン作戦で3〜4月に https://www.nikkei.com/article/DGXZQOCB291ZV0Z20C26A8000000/

読売新聞デジタル 2026年9月12日

沖縄知事選、辺野古基地や防衛強化も焦点…古謝氏と玉城氏の異なるスタンス https://www.yomiuri.co.jp/election/20260912-GYT1T00009/

毎日新聞デジタル 2026年10月10日

映画「東京上空300メートル」、3都県の劇場で上映開始 https://mainichi.jp/articles/20261010/k00/00m/040/239000c