「政治家は私たちの声を聞いてくれない」。そんな不満を抱える人々に、「あなたたちこそが主役だ」と訴えかける政治家がいる。既存の政治やエリートを批判し、「人民」の意思を掲げるポピュリズム。人々の不満を政治に届ける力がある一方、少数者の権利を脅かす危険性も指摘されている。
ポピュリズムとは…
まずポピュリズムとは何だろうか。千葉大学で政治学を専門にしている水島治郎さんは、大まかに二種類の定義が使われてきたと主張する。一つ目は固定的な支持基盤を超え、幅広く国民に直接訴える政治スタイルと捉えるもの。二つ目は「人民」の立場から既成政治やエリートを批判する政治運動のことを指す。
人々がポピュリズムに期待する理由
人々はどうしてポピュリズム、ポピュリスト政治家に期待するのだろうか。ここからは、「ポピュリスト」と呼ばれることもあり、期待されることもある政治家の例を挙げてみたい。
マムダニ氏
時事ドットコムニュースには、左派ポピュリストと紹介されているニューヨーク市長。彼は自らを民主社会主義者と自称し、トランプ氏と非難の応酬を繰り返してきた。彼は、全市民を対象とした保育サービスの無償化、家賃の引き下げなどを公約に掲げている。富裕層への増税や、法人税率の増税によってそれらの公約を達成させようとしており、特に、「富裕層ではないニューヨーク市民」からの彼への期待は高まっている。
山本太郎氏
水島氏が左派ポピュリストと紹介する山本太郎氏。彼は2011年の東日本大震災に伴う原発事故を機に、反原発運動に身を投じた。13年には参院選で初当選。19年にれいわ新選組を立ち上げると、二人の重度障碍者を当選させ、国会に送り込んだ。さらには、貧困問題に興味を持ち、炊き出しにも参加した。「弱いものの側」に立ってきたとも評価されている。政治ジャーナリストの鮫島浩氏は、自民党が右派で、既得権益層からの支持がある「右上」だとすると、山本氏は社会的弱者、生活者の側に立つ、「左下」だという。
では、ポピュリズムは民主主義にどのような影響を与えるのだろうか。ミュデとカルトワッセル(注1)は、ポピュリズムには民主主義を発展させる可能性があると述べている。
① 政治参加を促す
政治から排除されてきた周縁的な集団や「サイレント・マジョリティ」とされる人々を政治参加に向かわせる。そのことで、「自分たちの声も政治に反映されるべきだ」と人々が政治に参加するきっかけになる。
② 新しい「人民」をつくる
これまで別々の集団だった人々を、「人民」という一つの政治的なまとまりとして結びつける。それぞれ異なる立場の人々が「自分たちは既存の政治から無視されている」という共通認識を持つことで、新しい政治的なまとまりが生まれる。
③ 政治そのものを活性化させる
これまで経済や行政、司法などに任されていた問題を、「誰がどのような社会をつくるのか」という政治的な問題として議論する。その結果、世論や社会運動が活発になり、人々が政治について考え、決定する機会が増える可能性がある。
ポピュリズムの民主主義を損なう側面
ポピュリズムが批判される所以はどこにあるのだろうか。主に3つ紹介したい。
① 「人民の意思」が、少数者の権利を圧迫する
ポピュリズムは「人民の意思」を強く重視する。しかし、民主主義では多数派の意思だけで何でも決めてよいわけではない。「人民の意思」を実現することが、少数派の自由や権利を制限することにつながれば、立憲主義との緊張が生まれる。
※立憲主義 人間の権利、自由を保障し、そのために権力が誰かの一手に集中して強大にならないように権力を制限すべきであるとの考え方。
② 「敵」をつくることで、対立が激しくなる
ポピュリズムには、「われわれ人民」vs「エリート・既成政治」という対立の構図をつくる特徴がある。この対立が強くなると、自分たちの側と相手の側という二分法で政治を見るようになり、妥協や合意形成が難しくなる可能性がある。
③ 「人民の意思」を直接実現することが、制度を弱める可能性
ポピュリズムは、選挙や国民投票などを通じて「人民の意思」を直接的に実現することを重視する場合がある。政党や議会といった団体・制度や司法機関などの権限を制約する危険がある。
日本の民主主義が抱える課題とポピュリズム
日本の民主主義には、どのような課題があるのだろうか。その一つとして考えられるのが、世代間の政治参加や政治的代表の偏りである。少子高齢化が進む日本では、若者は高齢者に比べて人口に占める割合が小さい。さらに、若年層の投票率や政治家の年齢構成にも目を向けると、若い世代の意見が政治にどのように反映されているのかという問題が浮かび上がる。
もちろん、若者の意見が政治に反映されにくい原因を、人口構成や投票率だけで説明することはできない。しかし、若者が「自分たちの声は政治に届かない」と感じ、政治参加への意欲を失ってしまうとすれば、それは民主主義にとって大きな脅威となりかねない。
これはただの一例だ。世の中には、「小さな声」がたくさんあり、それを政治に反映させるのは難しいという状況がある。こうした状況を変える可能性はあるのだろうか。
筆者は、ポピュリズムが持つ性質が、状況打開を助ける可能性があると考える。
ポピュリズムは、既存の政治に不満を抱える人々に向けて、「あなたたちの声こそ政治に反映されるべきだ」と訴え、これまで政治から距離を置いていた人々を動かすことがある。そんな一人一人の不満が大きな世論になり、政治を動かすことも期待できる。その意味で、ポピュリズムは、既存の政治が十分に拾い上げてこなかった声を可視化し、民主主義を活性化させる可能性を持つ。
しかし、その声が必ずしもすべての人々の権利を尊重するとは限らない。ある集団の要求を実現するために別の集団を排除したり、多数派の意思を理由に少数者の権利を制限したりする可能性もある。
ポピュリズムは、政治から取り残された人々の声を届ける手段となるのか。それとも、新たな排除を生み出すのか。それはポピュリストと世論を作る私たち次第なのではないか。
注1:ミュデ オランダ人の研究者 共著に「ポピュリズム デモクラシーの友と敵」がある カルトワッセル チリ人研究者 共著に「ポピュリズム デモクラシーの友と敵」がある
参考資料
・水島治郎「ポピュリズムとは何か」中央公論新社 2016年
・宇野重規 「そもそも民主主義ってなんですか」東京新聞出版 2022年
・成田悠輔『22世紀の民主主義』SB新書、2022年
・070226_si5.pdf 多選制限に関する憲法上の論点 (平成11年の報告書から)
・【解説】 マムダニNY市長、就任から100日 成果と課題 – BBCニュース
・NY新市長に社会主義者マムダニ氏◆「左派ポピュリズム」から見えるもの(東京大学大学院准教授・斎藤幸平):時事ドットコム (2026年10月10日閲覧)
・(4ページ目)「山本太郎」とは、なんだったのか 鮫島浩氏「理想の政治家を7年間演じ続けた」 雨宮処凛氏「空気を読まないバカ」 | AERA DIGITAL(アエラデジタル) (2026年10月10日閲覧)
・総務省|国政選挙の年代別投票率の推移について (2026年10月10日閲覧)

