【特集】「さくら耳」で減らそう猫の殺処分

皆さんのおうちの周りで猫を見かけることはありますか? 筆者の暮らす京都では、自然がたくさんあるためか、たくさんの猫が道ばたを歩き回っています。

野良猫が起こしうる問題として、発情期の騒音や、糞尿被害、ゴミ荒らしなどが挙げられます。こうした理由から猫の処分を保健所に依頼しますと、捕獲された猫は保健所で一定期間保管されたあと、里親探しが行われ、一定期間が経過した場合はガス室で殺処分されてしまいます。平成28年度の統計によると、一年間で45000匹の猫が殺処分を受けています。人間による遺棄やその繁殖により、野良猫の数は増え続け、殺処分数も増加の一途をたどってしまいます。

この現状をなんとか変えようと、全国各地で取り組まれているのがTNR活動と地域猫活動です。

TNRも地域猫も聞いたことがないという方は、次に野良猫を見かけた時、その耳に注目してみてください。注意深く見てみると、町中を歩いている猫の中には、耳の一部が切られているものがいます。「耳カット」「さくら耳」と呼ばれ、避妊去勢手術が住んでいる野良猫であることを意味します。

 

(耳カット済みのちびちゃん。左耳がカットされています)(筆者の大学にて)

 

このように、野良猫を捕獲(Trap)し、避妊去勢手術を施し(Neuter)、元の場所に戻す(Return)する活動のことをTNR活動と呼び、野良猫の繁殖による数の増加を抑える狙いがあります。他にも、手術により発情期の騒音やマーキング行為がなくなったり、猫の行動範囲が限定され、被害範囲が減ったりするというメリットもあります。さらに、TNRの済んだ猫たちを地域住民で継続的にお世話をしていくのが地域猫活動で、TNRと共に全国各地で盛んに行われています。猫島と呼ばれる愛媛県青島、香川県男木島でもTNR活動及び地域猫活動は積極的に行われており、さくら耳の猫たちを日常的に見かけることができます。筆者の大学でも、猫サークルという団体がTNR活動を行い、大学猫として見守っていく活動に取り組んでいます。

 

(尾道で世話されている地域猫。右耳がカットされています)(広島県尾道市)

 

さて、こうしたTNR活動ですが、もちろん手術には費用がかかります。一般的な動物病院における避妊手術の料金は一匹あたり15000〜18000円、去勢手術は10000〜13000円と、高価なものです。しかし、ボランティアが世話する猫は10匹以上であることが多く、例えば筆者の大学には全部で50匹を超える猫がいると考えられており、莫大な手術費用が必要です。多くがボランティアで行われているTNR活動では、手術費用の調達も大きな課題となります。実際に、我々のサークルは、活動費が足りないことから、手術やお世話を見送らざるを得ない猫をたくさん抱えています。

しかし、この問題を解決しようとしている動物病院があります。大阪府松原市のAvetさん(HP)です。彼らは、TNR活動のための動物病院として、避妊去勢手術に格安で取り組んでおられます。

さて今回は実際にお邪魔し、手術の様子を見学させていただきました。その日見学したことをレポートさせていただきます!

Avetさんに到着しますと、ちょうどボランティアの方が大きな荷物を持って病院に入ってきました。荷物を覆うカバーを外すと、下からは捕獲器が現れました。中には可愛らしい猫がいて、心細そうに「にゃあ」と数回泣きました。

 

(捕獲器に入った猫)

 

ボランティアが獣医師から手渡された手術同意書に記入している間に、獣医師が猫の様子を確認します。健康状態が良ければ、その後手術を受けることになります。

手術室に入ると、そこにはいくつも捕獲器が置いてありました。中では猫が手術を待っています。

先に始まったのはメス猫の避妊手術です。猫に麻酔をかけて眠らせ、足を固定して手術をします。その際、野良猫の体に負担がかからないよう、麻酔の量を減らすなどの工夫がなされているそうです。腹部の毛を剃ったあと、卵巣と子宮を摘出します。通常飼い猫の時にはセンチほどになる切り口を、術後の経過観察が難しい野良猫の場合1センチに抑え、手探りで摘出するという難しさがあるそうです。一時間ほどの手術のあと、麻酔が効いているうちに、片耳をV字にカットし、出血しないよう処置を行います。

 

(手術中の猫)

 

メス猫を手術台から下ろすと、間髪入れず次の猫の手術が始まります。「次々猫が来るから、流れ作業でやるしかない」と獣医師から説明がありました。今度はオス猫の精巣摘出手術を見学して、手術室を離れました。

その日は匹の猫の手術を行っていましたが、多い時には10匹ほどの手術を一日で行うこともあるようです。また、手術を依頼してくるボランティアは、大阪府にとどまらず、京都や和歌山から来ることもあるようで、同様の団体が各地にないことを伺わせます。

 

(耳カット済みの猫)

 

Avetさんがこうした事業を行うのは、「かわいそうな動物を少しでも減らしたい」という思いがあるからです。その思いから、保護猫の里親捜しのサポートも行っています。

このような獣医師のサポートは猫の殺処分数を減らすためには不可欠で、また、大きな影響力があります。一方、私たちにできることはなんでしょうか。筆者は、こうした活動について理解し、さらに他の人びとに知ってもらうことではないかと考えます。

TNR活動は繁殖を防ぐだけで、野良猫の数の減少を確実に保障するものではありません。避妊去勢手術自体が猫の自然な状態に手を加える行為で、人間のエゴだという意見もあります。しかし、人間によって捨てられ、増えてしまった野良猫を、害があるからと殺処分し、また、飢え死にするのを見殺しにするといった行動をとるわけにもいきません。ベストな方法とは言いきれませんが、よりよい方法を探すための過程として、TNR活動に取り組む意味があるのではないでしょうか。

そして、この記事を読んでくださった皆様も、TNR活動や地域猫活動について知っていただき、野良猫とのつきあい方を考えてみてください。道ばたで「さくら耳」の猫を見かけたときには、是非、「地域で見守られて育っているんだ」と暖かい目で見守っていただければと思います。

 

 

(さびちゃん、もどきちゃん、あげちゃん)(筆者の大学にて)

 

参考記事:

6月26日付 朝日新聞朝刊「猫の島に生きる 青島猫を見守る会・紙本直子さん」(オピニオン)