【特集】 「顔のみえる店」 フェアトレードショップへ

名古屋市が「フェアトレードタウン」であることを知る人はどれほどいるでしょうか。認定されたのは2015年、日本では熊本県に続くものでした。筆者は地元の大学に通っていますが、恥ずかしながら2年前まで全く知りませんでした。

市民、行政、企業などが町ぐるみでフェアトレードを推進する取り組みを、「フェアトレードタウン運動」と言います。「地域の店によるフェアトレード商品の幅広い提供」「自治体によるフェアトレードの指示と普及」など6つの規準を満たした都市が「フェアトレードタウン」。日本で6都市が、世界では2100以上の都市が認定されています。

《フェアトレード》
伝統的な手工芸品や農産物を公正な価格で取り引きし、企業や地主などから不当な搾取を受けている発展途上国の人々の経済的・社会的な自立を支援する運動。
寄付や援助とは異なり、公平な取引条件のもと、生産者と買い手の対等な協力関係が築かれる。(ブリタニカ国際大百科事典より)

▲知ったきっかけは、JICAなごや地球ひろばで目にした「フェアトレードタウンなごやマップ」。両面にフェアトレード商品取扱店が掲載されている。小さく折りたたんで持ち歩けば、近くのお店に立ち寄ることができる。

今回、マップで紹介されていた「顔のみえる店 FAIR TRADE 風”s(ふーず)」に足を運んでみました。桜通線高岳駅から徒歩8分。お店が構えられていたのは、本屋さんの角にある8畳ほどのこぢんまりとしたスペース。壁の棚にはハンドメイドの帽子やスカーフ、地元産のはちみつ、フェアトレードのコーヒーやチョコレートなどが並べられています。目についた「ぴゅあシアバター」を手に取ると、「ここの会社を作った方は、もともとバスケットボールをアフリカの子どもたちに教えていて」と優しい雰囲気の店長さんが話しかけてきました。そして、日本で販売されるに至る経緯を教えてくれました。現地で良質な種の選別や製造まで化学薬品を一切使わずに行うため、美容に効く「微量成分」が丸ごと残っているそうです。

▲シアバターの売り場と商品のそばに置かれていたパンフレット。良質なだけでなく、これを使うことでシアの土地と伝統文化を守ることができる。

どの棚の前でも長い時間足を止めてしまいました。商品のそばの丁寧なポップからは、生産者との温かな繋がりを感じます。なかには、生産者の顔が印刷されたパッケージもありました。誰がどのように作ったのか把握できるものしか置いていないそうです。

店内では絶えず店長さんとお客さんがおしゃべりに花を咲かせています。商品の話から、近況、そして労働搾取の問題について。

最近のファストファッションブランドは安すぎて怖い。海外との人件費の差がそうさせているだけだと思われているけれど、労働搾取の可能性に目が向けられていないんじゃないか。調べなきゃいけないけど怖いなあ——

お客さん同士もよくお話しするそうです。訪れた常連さんが、気さくに話しかけてくれました。「フェアトレードについて興味を持つ入り口は様々。お客さんから学ぶことも多い」という店長さんは、お店の一角にフェアトレードや環境についての資料を沢山置いていました。ただ商品を提供するだけではなく、環境問題や国際交流などに興味を持つ方々の出会いの場にもなっているようです。

▲レジ横のフェアトレードや環境に関連する本やパンフレット、チラシ(左)。まとめて置いてあるところは少ないため、集めているそうだ。自由に持ち帰れるパンフレットは、わかりやすく諸問題を紹介している(右)。

筆者も、いつもお世話になっている方や自分自身への贈り物にと、チョコレートとティーパック、そしてメープルアーモンドを購入。スーパーの倍以上の値段はしましたが、不思議と気持ちよく買うことができ、「大事にたべよう」と思えました。会計後は、レジ横の様々な色形をした紙袋の束の中から、ごそごそとぴったりのサイズを渡してくれた店長さん。「他のお店の紙袋をリユースさせてもらってるんです」と笑っていました。

視野を世界へと広げることは大きなことのように思えます。でも、生産者の顔が見えていない、見ようとしていないだけで、普段から私たちは世界とつながっています。消費生活のなかで、誰もが世界の子どもや女性をさらに弱い立場へ追い込んでいる可能性があります。当たり前な日々の買い物をすべて見直すのは難しいことですが、まず今日買うチョコレート1つを、フェアトレード商品に替えてみてはいかがでしょうか。名古屋近辺にお住まいなら、マップを見れば意外と身近で手に入ることがわかります。フェアトレードショップへと足を運んでみるのも一手です。

今回訪れたお店は、店長さんの産休のためいったん休業するそうですが、4月ごろには再開する予定とのこと。美味しいものを求めて。国際交流や貧困問題、環境問題を学ぶ入門の場として。「つながり」を感じる場として。春の営業再開が楽しみです。

▲生産者の姿がパッケージに印刷されているチョコレート(左)。地元の柳原はちみつ(右)。

▲店内の様子(左)。筆者購入の商品(右)。